ISBN: 9784326303281
発売⽇: 2023/05/01
サイズ: 22cm/306,41p
ISBN: 9784805112854
発売⽇: 2023/04/07
サイズ: 19cm/430p
「アメリカ知識人の共産党」/「理念の国がきしむとき」 [著]中山俊宏
基本的価値及び戦略的利益を共有する同盟国。外務省HPによる日米関係の説明だ。今日、公的な場で日米関係が言及される際、必ず掲げられる「価値の共有」。だが私たちは「共有」を自明視できるほど、米国的な価値を理解しているだろうか。そもそも米国的な価値とは何か。
米国にとってすら、自国が体現する理念や価値は自明ではなく、絶えず論争になってきた。
『アメリカ知識人の共産党』は、戦後米国で「異物」として排除された共産党をめぐる論争の分析を通じ、そうした「理念国家」の本質に迫る。米国共産党の党員は全盛期でも8・5万人ほどだったが、実態とは不釣り合いな論争を巻き起こし、知識人のアイデンティティーや自国理解に深く刻まれた。著者はここに「理念国家」の宿命を見いだす。下部構造決定論によって米国の建国の理念を相対化し、体制の事実上の転覆を訴える共産党は、「理念国家」という自画像を根本から揺さぶる存在だった。米国にあって共産党は一左翼政党を超えた存在であり、共産党をめぐる論争は、共産主義はなぜ米国に根付かなかったのか、むしろ反共主義という不寛容こそ米国的な理念に背馳(はいち)していないか、そもそも米国の理念とは何かといった根源的な問いを孕(はら)みながら展開された。
中山氏は日米同盟に代わる「プランB」はないと言い切り、同盟コミット派を自認していたが、重要な存在だからこそ、米国が抱える本質的な不安定さ、関係構築の困難さから目を逸(そ)らさなかった。オバマ・トランプ・バイデン時代を分析した『理念の国がきしむとき』は、そうした知的誠実さに裏付けられた渾身(こんしん)の論集だ。
米国が「理念国家」を自認するとき、そこには、国益の追求に汲々(きゅうきゅう)とする他国と違い、普遍的な理念を追求する、といった肯定的なニュアンスがある。しかし本書が炙(あぶ)り出すのは、「理念国家」であるがゆえの弱さや脆(もろ)さだ。多様な人々をまとめるために常に理念を語り、確認し続けなければならない「理念国家」であることは、国内に際限のない理念闘争を生み、対外的には言行不一致を生み出してきた。「米国第一」を掲げ、国益追求を赤裸々に肯定するトランプ大統領の誕生が象徴するように、昨今は「理念国家」の看板を公式に下ろそうという世論も強まる。
こうした米国と協働するには、日本はますます構想力が求められると生前中山氏は述べていた。氏の不在は痛恨だが、「米国とは何か」を問い続けたその知的格闘は今後も長く米国と私たちの未来を照らすはずだ。
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なかやま・としひろ(1967~2022) 津田塾大准教授、青山学院大教授、慶応大学教授などを歴任。著書に『介入するアメリカ』『アメリカン・イデオロギー』、共著に『オバマ・アメリカ・世界』など。