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惑星的想像力で根本的に問う「文学は地球を想像する」など杉田俊介が選ぶ注目新書 

『文学は地球を想像する エコクリティシズムの挑戦』

 エコ・環境批評の入門書、結城正美『文学は地球を想像する エコクリティシズムの挑戦』(岩波新書・1056円)は待望の一冊。人類は今や地球規模で気候や生態系を危機に陥れている。地球を守ろう、自然に優しく、と主張するだけでは足りない。自然や環境とはそもそも何か。惑星的想像力を通して、そのことを根本的に問わねばならない。人工/自然の対立を超えた「都市のなかの自然」の探究。人種差別や経済格差を同時に問う環境正義の観点。人間はすでに人間社会の問題だけを考えるだけではすまないのだ。
★結城正美著 岩波新書・1056円

『闇の精神史』

 とはいえ、驚嘆すべき情報量を圧縮し、現代的な思想の尖端(せんたん)を啓蒙(けいもう)的に紹介する木澤佐登志『闇の精神史』(ハヤカワ新書・1122円)を読むと、人類の「夢」の凄(すご)みとヤバさに慄然(りつぜん)とする。火星移住、不死、死者復活、肉体離脱、電子共同体……。すでにユートピアを喪(うしな)った世界で、それでも地球と現世を超えた「外」を求めて止(や)まない暗黒的精神の系譜。だがその時「身体」と「政治」が抹消されていやしないか、と木澤は諦め=明らめと共に諫(いさ)める。そして歴史と記憶の残骸を寄せ集め、未来を「退屈しながら待ちわびる」姿勢によって、ユートピアの残滓(ざんし)を延命させようとする。闇に魅惑されて闇に飲み込まれない「陰」の知性がここにある。
★木澤佐登志著 ハヤカワ新書・1122円=朝日新聞2023年10月28日掲載