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かわいいの起源と歴史解き明かす「日本の動物絵画史」 田中大喜の新書速報

『日本の動物絵画史』

 世界でも類を見ない多彩な動物絵画の保有国である日本。金子信久『日本の動物絵画史』(NHK出版新書・1485円)は、古代から近代にかけての日本の動物絵画の歴史と特徴を80点を超えるカラー図版とともに解き明かす。
 日本の動物絵画史を特徴づけるのは、中世の禅の世界から生まれ近世に全盛を迎えた「かわいい動物絵画」であり、各作品に対する著者の考察は愛情に溢(あふ)れ楽しい。だがそれは、長くその芸術性を認めなかった西洋美術を範とする近代日本美術の価値観を相対化する姿勢の現れであり、多様な価値を認める日本美術史の現在地を示す。
金子信久著、NHK出版新書・1485

『戦雲(いくさふむ) 要塞化する沖縄、島々の記録』

 急ピッチで軍事要塞(ようさい)化する南西諸島。三上智恵(ちえ)『戦雲(いくさふむ) 要塞化する沖縄、島々の記録』(集英社新書・1320円)は、2017~23年に取材したその実態と分断を抱えつつもこれを止めるべく日々奮闘する市民の姿を有りの儘(まま)に伝える。
 着々と進む自衛隊の配備、弾薬庫の建設、「有事」を想定した演習、離島住民避難手順の図上訓練……戦場の様相を呈しつつある南西諸島の現状に全国の関心は薄い。だがこの現状は日本の危機に他ならず、本書はその警鐘である。後世の人びとに戦争を選んだと評されないためにも、我々はこの現状を正しく知ることから始めなくてはならない。
三上智恵著、集英社新書・1320円=朝日新聞2024年2月17日掲載