たとえば、誰かの言葉に傷ついた時、誰かが誰かを言葉で傷つけるのを見た時、なんでみんなそんなことを言うんだろう、と苦しくなる。そしてその反論になる言葉を、自分の中でそっと唱える。できるだけ、気持ちに全てを任せないように、自分がいつまでも貫ける冷静さを纏(まと)った言葉を。その、唱えた言葉はお守りになり、いつまでも自分を支えてくれる気がしていた。
でも本当は、なんでみんなそんなことを言うんだろう、だけでなく、言うなよ、と思っている。なぜ、私が反論を心の中で静かに唱えているのだろう、空に大きく飛行機雲で「あなたたちは間違っている」って書いてやりたい、と思うことはある。そっと、お守りみたいに、こっちの方が正しさだと信じている言葉を握りしめて眠るなんて、実は悔しくてたまらないのだ。
「あなたが私を可愛いって思ってくれなくたって 私は私の可愛いところをたくさん知っているわ」「自分が理解できないものは全部悪だって決めつけたほうが楽だもんね」
これらは、原田さんの絵に書かれている言葉です。ここにあるのは誰かが心の中にしまっているお守りのような言葉だと私は思っているけれど、同時に空に大きく描かれた言葉でもある、と感じる。心にしまうためだけでなく、世界に焼き付けるような、そんな色彩、そんな瞳、そんな女の子。共感するためだけに、誰かが私をわかってくれているって泣くために、心の支えにしようってそっと一人が思うためだけにこのイラストはあるのではなく、夕焼けみたいに世界を染める色をしているから、私は原田さんの絵が好きだ。=朝日新聞2024年2月17日掲載