- 『マリーナ バルセロナの亡霊たち』 カルロス・ルイス・サフォン著 木村裕美訳 集英社文庫 1100円
- 『炒飯狙撃手』 張國立著 玉田誠訳 ハーパーBOOKS 1390円
- 『すみせごの贄(にえ)』 澤村伊智著 角川ホラー文庫 814円
全四部作の長大なミステリ〈忘れられた本の墓場〉シリーズで日本でも支持を集めたカルロス・ルイス・サフォン。(1)はサフォンがキャリア初期に書いた小説だ。
一九七九年のバルセロナ、寄宿学校で学ぶ十五歳のオスカルは郊外の古びた館に住むマリーナという少女と出会う。マリーナと交流を深めるオスカルは、ある日彼女と訪れた墓地で黒いマントの女性が、黒い蝶(ちょう)が刻まれた墓碑に花を添える光景を目撃する。甘酸っぱさも漂う少年少女の出会いから、妖しく幻想的な冒険譚(たん)へと変貌(へんぼう)していく様が見事。謎と郷愁の念に満ち溢(あふ)れる物語である。
近年、アジア圏のミステリが数多く刊行される中で、そのジャンルも幅広くなっている。(2)は台湾発のアクション小説。炒飯(チャーハン)作りの名手でもある潜伏工作員の小艾(しょうがい)はローマで標的を殺害した後、何ものかに命を狙われるようになる。一方、定年を目前に控えた刑事の老伍(ろうご)は、軍人の連続不審死を追っていた。一見、コミカルなタイトルだが、中身はかなり硬派な活劇小説で、細部まで凝った銃撃描写を堪能できる。主人公の逃亡劇が世界各地を舞台に点々と繰り広げられ、スケールの大きな冒険小説になっている点も見逃せない。
(3)は恐怖と謎とスリルが交差する〈比嘉(ひが)姉妹〉シリーズの第三短編集。古典的な怪談である“子育て幽霊”を現代的かつ尖鋭(せんえい)的な形で描いた「火曜夕方の客」や、失踪した料理教室の講師を巡る不穏な出来事を綴(つづ)る表題作など、時にミステリの技法を用いながら読者の仄暗(ほのぐら)い感情を掻(か)き立てる。=朝日新聞2024年4月6日掲載