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結城真一郎「難問の多い料理店」 「依頼」と「謎解き」運ぶ配達員

 ミステリの中に安楽椅子探偵と呼ばれるジャンルがある。探偵が事件現場に行かず、話を聞いただけで謎を解くタイプのものだ。これまでも、客の出した謎を解くバーテンや、身体的な事情で外出できない人物など、安楽椅子探偵の名作は数多く出されている。

 だが、これは初めてだろう。フードデリバリー専門レストランのオーナーシェフが配達員を助手にして謎を解くのである。令和の今だからこそ誕生しえた安楽椅子探偵だ。

 特定の料理の組み合わせで注文すると、それはオーナーへの謎解きの依頼を意味する。ウーバーならぬビーバーイーツ配達員が依頼者とオーナーの間に入って依頼と謎解きを配達するという趣向の連作である。

 扱われるのは不自然な焼死体が発見されたアパート火災、空室に届けられる置き配、交通事故の被害者の指が欠損していた理由、捕まったときに妙な言葉を発した空き巣などなど。不可解な謎ばかりだが、オーナーは少しの追加調査で真相を見抜いてしまう――。

 謎解きの鮮やかさもさることながら、注目は各話で語り手を務める配達員たちだ。彼らはそれぞれ事情を抱えているが、担当する事件を通して、自らの問題に向き合うことになる。たとえばネットでの反応にこだわる女性がインフルエンサーがからんだ事件を担当する、妻との間に溝を感じている男性が夫婦問題についての調査を頼まれる、などなど。設定のみならず事件やテーマもまた、現代ならではの切り口を見せてくれるのである。

 だが話はそれで終わらない。本書の最大の謎はオーナーシェフその人にある。同じパターンで話が続くのも著者の計算だ。終盤で物語のテイストは大きく変貌(へんぼう)する。連作ならではの企(たくら)みに満ちた、「今」を切り取る意欲作だ。

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 集英社・1870円。6月刊。4刷2万8千部。担当編集者は「現代ならではの謎が用意され、自分にも起こりうるかもしれないという妙なリアルさが魅力。ミステリ好きだけでなく、小説を読まない方にも広まっている」と話す。=朝日新聞2024年10月12日掲載