- 『写楽百面相』 泡坂妻夫著 創元推理文庫 1100円
- 『とんちき 蔦重青春譜』 矢野隆著 新潮文庫 781円
- 『歌麿 UTAMARO ジャパノロジー・コレクション』 大久保純一著 角川ソフィア文庫 1474円
今回は「2025年大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』の予習となる3冊」をテーマに選出。
〈鶴に蔦こたつの上に二三さつ〉の句で謳(うた)われる(なんと実在の句である)江戸の版元の若旦那、花屋二三がある人物の描いた役者絵に惹(ひ)かれるところから始まる(1)は、東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)の正体を探る、いわゆる写楽正体説もの。世相や当時起こっていた事件、人々を東洲斎写楽という綴(と)じ紐(ひも)でひとくくりにした唯一無二のスケール感と鮮烈に描き出された江戸の粋、主人公二三の目の前から消えた思い人、卯兵衛(うへえ)との物語が複雑に絡み合う、古典的傑作。
寛政の改革によって処罰された蔦屋重三郎の耕書堂に集う、若手戯作(げさく)者、浮世絵師たちを主人公に据えた(2)は、江戸を舞台にした青春小説、芸術家小説。まだ何者でもない若者たちが自分の数寄や若さを振り回し、無軌道に突き進んでいく様は、わたしたち読者をティーン時代、若手時代のノスタルジアへと誘う。若者たちの一人、後に写楽を名乗ることになる斎藤十郎兵衛の辿(たど)る道は、若者特有のエネルギーに満ちた陽の物語である本作に別の色を投げかけ、奥行きを生んでいる。
蔦屋重三郎が見出(みいだ)しその才能を開花させた喜多川歌麿の画業をまとめた(3)は、一般的な代表作である美人画の他、狂歌絵本や黄表紙の挿絵など、歌麿の仕事の数々を項目ごと、コンパクトに紹介。彼の足跡を1冊で見渡すことができるようになっている。「べらぼう」で重要人物になるだろう歌麿を知る、最初の一冊に。=朝日新聞2024年10月19日掲載