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クリハラタカシ「余談と怪談」 とりとめない問い、哲学の領域

『余談と怪談』 クリハラタカシ〈著〉 ヒーローズ 792円

 絵本とマンガの中間的な作品を多くものしてきた作家の初エッセイは、意外なほどに“マンガらしいマンガ”だった。日々の雑感や子供時代の思い出に、ちょっと怖い話が交じる。後者は怪談というより不思議体験で、怖さを期待すると肩すかしになるが、むしろ余談のほうの深遠さに鳥肌が立つ。

 人身事故で電車が止まったことから心と体の関係を考え、自分の細胞の働きからビッグバンに思いを馳(は)せる。100歳の祖母を100年前からやってきたタイムトラベラーになぞらえ、高校時代に数学で4点を取ったときには「さすがにこれはやばいか!」という恐怖と同時に「急に世界が広がった」爽快感も感じたという。

 とりとめない問いと思索、発想の飛躍、空想と発見。そういう視点があったか、と何度もハッとさせられる。それは一種の哲学の領域かもしれない。子育てや仕事に関する身近な話題もなるほどと思うし、「個人的に信じられないもの」には大いに共感する。

 やわらかな線、飄々(ひょうひょう)とした語り口は親しみやすく、目に見えない概念の視覚化も巧み。コマの隅の一言も気が利いている。そして何より妻と娘たちのキャラがいい。怪談はさておき「クリハラ家の余談」をもっと読みたい。=朝日新聞2024年12月7日掲載