
「日本SFの父」とも呼ばれる作家・海野十三(1897~1949)の業績をたどる展覧会「海野十三と日本SF」が東京・世田谷文学館で9月28日まで開かれている。
海野は逓信省電気試験所で技師として働きながら、28年、雑誌「新青年」に掲載された「電気風呂の怪死事件」でデビュー。科学探偵・帆村荘六の活躍するミステリーのほか、SF、冒険小説、ユーモア小説など、幅広い分野で、科学者としての知見に基づく想像力豊かな物語を残した。
会場には著作や戦時下生活を克明に書いた日記のほか、「黒死館殺人事件」で知られる小栗虫太郎ら、ゆかりの作家との交流を伝える品が並ぶ。とりわけ興味深いのは、デビューのきっかけを作った横溝正史との書簡。戦後、家族ぐるみの付き合いを続け、横溝が東京・成城の家を買う際には、海野が畳の上に札束を積み上げて、資金を工面したという。
ほかにも、海野の影響を受け、戦後の日本SFブームを先導した星新一、小松左京、筒井康隆らの仕事も紹介。手塚治虫は海野について「ボクの一生に大きな方針をあたえてくれた人」と書き残している。
36年、海野が初めて発表した長編科学小説「地球盗難」が今月、春陽文庫から復刊された。「作者の言葉」に、こうある。
〈神と悪魔との反対面を兼ね備えて持つ科学に、われ等(ら)は取り憑(つ)かれているのだ。斯(か)くのごとき科学力時代に、科学小説がなくていいであろうか。否!〉
入場料は一般200円。開館時間は午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで)。月曜休館(7月21日、8月11日、9月15日は開館し翌日休館)。(野波健祐)=朝日新聞2025年5月28日掲載
