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「好き」を追い求めて、たどり着いた新境地 書店員オススメのエッセイ5冊

あなたの”好き”を教えてほしい

「好き」な気持ちが私たちを救う

 本当に心から疲れてしまった時、一番最初に愛せなくなるのは自分自身な気がしている。そして、そんな自分を救ってくれるのが、推しの存在だったりする。

 『「好き」な気持ちが私たちを救う』は、燃え尽き症候群になってしまったジヘさんが、アイドルに沼落ちするところから始まる。他人の目や評価を気にして自分らしく笑えない時、自分を愛することの大切さを教えてくれたのは彼らだった。

 かくいう私もジヘさんと同じグループを推しているので、読みながらずっと「わかる〜わかるわぁ〜」と首がもげそうでした아포방포。泣きそうになりながら、時々クスッと笑いながら、楽しく読める一冊です。推しのいる人もいない人も、好きになれるものを探している人も、ジヘさんと一緒に”本当の自分になる”旅に出てみませんか? 見なれない方へ行く時、そこには思わぬ幸せがあるようです。(本と物語ユンスル・愛)

書くこと 読むこと 本を開きつづけること

本と偶然

 『わたしたちが光の速さで進めないなら』『この世界からは出ていくけれど』などのSF作品の著者であるキムチョヨプの初エッセイ。本書では、書くことと読むこと、小説とノンフィクション、障害の当事者性、そして書くための作法書や書評の重要性などについて語られる。問いを立て、文献を漁り、簡単には答えを出さず、常にどこか客観性を持つ一貫した姿勢は、科学者を目指していた著者だからこそとも感じられる。時に苦悩して小説に向かいながらも、「書きながら知っていくべき」という言葉は様々な創作に当てはまるのではと、大きく頷いてしまう。

 本書では日本語に翻訳されている書籍が多く紹介されているため、読みたい本が増えてしまうという嬉しい悩みもついてくる。「なぜSFなのか」という問いに常に向き合い、「誤読が拡張の可能性へと変貌する偶然の瞬間を期待し」ている著者の喜びからは、今後はいったいどんな偶然が生まれるのだろうか。(ブックスルーエ・髙橋麻菜)

本好きのための読書常備薬

毎日読みます

 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』で2024年本屋大賞翻訳小説部門を受賞したファン・ボルムによる53章の短いエッセイ集。

 一番初めに付けた仮タイトルである「本と親しくなる方法」が、そのまま本書の説明にもなっている。ご自身の経験や知人友人のお話、インタビューや本の引用を多く用いて、例えば難しい本への挑戦の仕方、それぞれの気分にあった読書のしかた、時間の使い方、時には読むのを「いつか」に回す心構えなど。幼い頃から本が身近にあり、読書と地続きの生活を送るファン・ボルムによる読書との接し方が紹介される。

 本好きだけどなかなか読めない人の常備薬として、もしくは読書トークを交わしてくれる友人として家に1冊置いておきたい。目次から自分の抱えているもやもやに関係しそうな項目を、もしくはランダムにぱっと開いて読んでみれば、もっと本が読みたくなるはず。本好きが語る本の話こそ、読書スランプの特効薬だ。(三省堂書店神保町本店小川町仮店舗・関口哲史)

わたしは息づく、言葉を読む、木の傍で。

「なむ」の来歴

 なむとは、韓国語で木のこと。秘苑のプラナタスの木もれ陽、がじゅまるの根本で三線を弾き謳うタクシー運転手、在日朝鮮人たちが有孔のしるしと贈った柳の通り…。柳自身の詩も交えながら、さまざまななむのイメージとともにその時々に著者がであった土地の時間や言葉の存在が匂い立つほどに満ちている。

 韓国・日本・沖縄。それぞれの場所で知った、怒りも喜びも哀しみも躊躇いもすべて抱き留めようと言葉を尽くす筆致は、生きるこの身体が出会い続けている日々が、比べられるものではなく輝くものだと教えてくれるみたい。誰かの来し方がこうして言葉によって残され、それを読むわたしの中にはわたしでない誰かを知ることで交わり、わたしの言葉として息づきはじめる。そうした読書の不思議、醍醐味のひとつを味わえる一冊だ。

 わたしたちにできるのは、読むこと。よく、よくよく読むこと。本を読むという静かな営為を照らしだす、たおやかなエッセイ集。(toi books・磯上竜也)

韓国文学人気を支える仕掛人が綴るエッセイ

本を作るのも楽しいですが、売るのはもっと楽しいです。

 東京・神保町に韓国書籍専門の本屋「チェッコリ」をつくり、出版社「クオン」の代表も務める金承福(キム・スンボク)のエッセイ集。彼女の日本留学時代の話や、人生をおくるうえで影響を受けた韓国の作家たちとのエピソードが綴られている。

 毎年、11月に神保町で開催されるK-BOOKフェスティバルの会場でキムの姿を見かけた人もいるかもしれない。いつも穏やかな笑顔を浮かべているが、その内側にはほとばしる情熱とエネルギーが蓄えられている。とにかく行動に移す人だ。それもすぐに。

 現在の韓国文学の人気は、キムが少しずつ種をまき、水をやり続けた結果、花が咲いたわけだが、その道のりはときに険しいものでもあった。本書を読むと、彼女がどんな信念のもとに韓国文学を日本の読者に届けてきたのかがよくわかる。人との縁を大事にしながら、その縁を次につなげていく。そうして韓国文学は徐々に日本の海外文学愛好家へと広がり、奥行きを増していったのだ。(葉々社・小谷輝之)

K-BOOKフェス2025、書店員オススメの本

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