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ハン・ガン最新刊から新星の短編まで。新時代の韓国小説、書店員オススメの4冊

涙をやさしく肯定してくれる、希望のお話。

涙の箱

 涙は様々な感情を深く感じる方法。涙の理由はそれぞれだが、悲しみの涙にフォーカスを当ててみる。大人になると、悲しくても泣けない。あるいは、涙を堪えてしまうことが多くなる。

 無理に笑わなくていい。感じたことを、そのまま外に出せることが、心豊かに生きることになるのだと思う。そして人と心の痛みを共有することで、一人ではないと気づける。人は一人では生きられないのだから。

 涙を集めるおじさんと、泣いてばかりいる子どものお話。韓国の近現代史の中で流された涙(戦争、暴動)とも関連して響き合う。 物語全体に漂う、あたたかく静かな哀愁はハン・ガンらしさを感じた。(本のあるところ ajiro・川﨑佑也)

「涙の箱」書評 世界のために泣けることの強さ

チョン・ヨンス・ワールド! 待望の初邦訳

明日の恋人たち

 女性作家の活躍が目覚ましい韓国文学。男性作家は? と思ったら、とんでもない作家が現れた。その名はチョン・ヨンス。

 『明日の恋人たち』は彼の初邦訳書で、韓国版の同名短編集から作家が自選した五篇と「現代文学賞」を受賞した「未来のかけら」が収録されている。人間の内面の深みに読者をいざなう流れるような文体と、関西人ならハリセンで後ろ頭を叩きたくなる「うじうじ」した感情描写が特徴だ。ところが読み進むにつれて、デジタル社会で私たちが忘れてしまった人間の感情の繊細さや揺らぎ、その感情を通して見える日常の美しさを呼び起こすチョン・ヨンス・ワールドにハマってしまう。

 作家はあとがきでこう書いている「最近は、今を生きる人たちと何かを共有したいという気持ちで書いている。文学という言語によって交わす対話が、僕たちを少しは孤独から救ってくれると気づいたからだ」。本書を通じた作家との対話で、昨日までの殺伐とした日常が輝き始めるに違いない。(冊房shirotora・中村晶子)

この世界を生き直すための、奇妙な物語たち

ブロッコリーパンチ

 植木鉢から聞こえてくる父の声、ブロッコリーになった恋人の右手、イグアナとの水泳練習……。一見奇妙な物語だが、読み終えた後にはむしろ現実世界の方が奇妙に思えてくるから不思議だ。世界がくるりと反転する感じ、あるいは物語と現実世界がまじわり、そこに新たな景色が見えてくるような感じ、とでも言おうか。

 登場人物は皆、大切な人を失ったり、誰にも言えない苦痛や後悔を抱えていたりする。そんな彼らの日常に起こる出会いや出来事が、少しずつ何かを変えていく。たとえば、「赤い実」では木になった父との生活が思わぬ出会いを語り手にもたらし、「イグアナと私」ではイグアナの願いを受け入れた「私」がやがて自分自身の願いに気づく。どの話にも、他者を通してものを見ること、あるがままの存在を受け入れることによって世界が変化していく過程が描かれている。

 たんなる奇想とも喜劇ともちょっとちがう、この世界を生き直すための物語たちだ。(Zero O'Clock・サキ)

「ブロッコリーパンチ」書評 心によく効く不思議、あります

誰かと出会うことは、理解し共感すること

ボンジュール,トゥール

 お父さんの仕事の都合で、フランスに暮らす12歳の韓国人少年ボンジュ。大都会パリから美しい田舎町、トゥールに越して来たところから物語は始まる。部屋に備え付けられていた机に、ハングルの落書きを見つけたボンジュはそれが気になって仕方がない。一方、学校では風変わりな日本人の少年、トシのことが気になる。落書きとトシ、一見なんのつながりもないはずの二つが接点を持ったとき、ボンジュの世界が大きく変化する。子どもならではの好奇心と探求心に引き寄せられ、異邦人同士の二人は淡い友情を育んでいく。だが二人の間には分断と異文化の垣根がある。ボンジュは唐突に訪れる別れによって、それを実感する。12歳の少年の視線で語られる相容れない世界の現実は率直でわかりやすい。誰かと出会うことは理解すること、共感することだと気づかされる。それは子どもの世界だけではなく、実は大人の胸にこそ響く、普遍的な問いかけのような気がしてならない。あおぶんこ・青嶋昌子)

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