奥山由之「photographs」 家族の記念写真を新たな作品に構成すると
この写真集に掲載された元の写真は、奥山由之自身が撮影したものではない。祖父母の邸宅に残されていた家族の記念写真に奥山が手を加え、新たな作品として構成したものである。いずれの写真も、被写体の人物だけが眩(まばゆ)い光によって切り取られ、その独特な法則のもとに統一されている。奥付を見ると、文字どおり“構成 奥山由之”と記されていた。
この写真集を眺めていてまず連想したのは、観光地に置いてある顔出し看板。ご当地由来の偉人や景色、特産物で模(かたど)られた、顔の部分だけがぽっかり穴のあいた例のあれだ。
被写体がその場所にいた事の証しとして記念写真は機能するが、被写体と、背景にある場所の特徴や属性が異なることで成り立っている。
その被写体と背景の違いを極端に強調することが、顔出し看板の面白さだが、撮影されていない時、被写体がいるはずの空虚な穴は、公共に開かれた観光地の特徴を描いた看板の絵との対比でより匿名性を際立たせる。穴に顔をあてがうのは誰でも成り立つ。
“構成”という立場には、写真家として撮影することをいったん手放すことを選んだ奥山由之の姿勢が込められているようにも見える。そして、それはどこかその匿名的な穴を想起させる。
しかし、奥山はその穴に光を灯(とも)す。奥山は見ているだろう本来あるべき被写体との個人的な関係性(家族)を作家的身振りで秘匿する。=朝日新聞2026年6月6日掲