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「運命と希望」書評 呪いよりやっかいな人情を洞察

評者: 青山七恵 / 朝⽇新聞掲載:2026年06月20日
運命と希望 著者:ニクラス・ナット・オ・ダーグ 出版社:小学館 ジャンル:文芸作品

ISBN: 9784093567541
発売⽇: 2026/04/01
サイズ: 13.6×19.4cm/594p

「運命と希望」 [著]ニクラス・ナット・オ・ダーグ

 重厚感漂う装丁のイメージにふさわしい、圧巻の読み応えの歴史小説。序盤は同時進行する複雑な状況を摑(つか)むのにやや苦労したものの、終盤はほとんど息をするのも忘れ物語世界に没頭した。
 舞台は十五世紀前半のスウェーデン。青と金色の紋章を持つ名貴族の家系に生まれた青年モンスは、王への不満を募らせた親族の差し金で、反乱軍のリーダーであるエンゲルブレクトの従者となる。誠実な仕事ぶりで彼の信頼を得たモンスは一族に繁栄をもたらすが、それもごく一時のこと。男たちの権力欲、誇りと忠誠がとめどなく絡みあい、一族の光モンスは思いもよらぬ悲劇へ追い込まれていく。男たちの単なる引き立て役ではない、女たちの物語からも目が離せない。影の主役はなんといってもモンスの母クリスティーナだろう。溺愛(できあい)する息子が家を出て、今でいう空の巣症候群と更年期障害とのダブルパンチで生ける屍(しかばね)と化したクリスティーナだが、息子のために再起し、強烈な統率力を武器に大活躍。極寒の夜、彼女が決死の覚悟で居城を守りぬこうとする場面は一文一文が絵画のように鮮烈で、間違いなくこの長大な物語のクライマックスの一つだ。そんな母の陰でひっそりと生きる娘ブリータも強い存在感を放って忘れがたい。
 巧みに緩急を操り読者の心を揺さぶる著者のストーリーテリングの手腕は傑出している。たやすく感傷に流れない堅固な文体には、運命に絡みつき希望をあやす、ある意味呪いよりもやっかいな人の情というものへの深い洞察が宿る。青と金色の紋章をもとに後年モンスの一族に与えられた家名は、夜と昼を意味する「ナット・オ・ダーグ」。つまり著者のニクラス・ナット・オ・ダーグ氏は、れっきとしたモンスの子孫なのだ。そのことを想(おも)うと、史実を元に書かれたという本書にさらに得体の知れない寒気を覚える。続編は来年日本でも刊行予定とのこと、待ち遠しい! 
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Niklas Natt och Dag 1979年、ストックホルム生まれ。2017年発表のデビュー作『1793』を含む3部作が各国で話題に。
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ヘレンハルメ美穂訳