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「現代の夢解きの本」書評 歴史に刻まれた人生の深い断絶

評者: 藤井光 / 朝⽇新聞掲載:2026年07月11日
現代の夢解きの本 (ルリユール叢書) 著者:タデウシュ・コンヴィツキ 出版社:幻戯書房 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784864883467
発売⽇: 2026/05/26
サイズ: 12.3×18.8cm/504p

「現代の夢解きの本」 [著]タデウシュ・コンヴィツキ

 小説の書き出しは、演劇の舞台を眺めているようだ。「私」ことパヴェウという独り身の男性が、自殺未遂のあとベッドで目覚めると、そこに集まった数人がかみ合わない話を続けている。
 そこはポーランドの小さな町、ドイツとロシアの両方に挟まれて2度の世界大戦を経験した土地であり、あちこちに戦争の遺物が残存している。パヴェウの周りでは、「パルチザン」や「伯爵」などの町の人々が、求める人生と現実とのギャップに苦しみつつ、空回りしてばかりの行動で日常を彩る。
 一方のパヴェウは、町の人々とは距離を置いたままだ。それはなぜなのか。いったい彼はどこから来て、どこに向かうのか。次第に、過去の記憶が語られていくことで、主人公の人生が少しずつ見えてくる。彼は第2次世界大戦中にドイツ占領軍への抵抗運動に身を投じ、戦後は反共産主義のパルチザンの一員として活動していたのだ。その過去は「きみ」や「僕」を使って語られ、現在は「私」であるパヴェウの人生に刻まれた深い断絶を示している。
 そして今は、社会主義下で「党の息子くん」と呼びかけられる。寂れた町で、鉄道敷設の単調な仕事をしているところに、ダムが近くに建設されて一帯が水没するという知らせが飛び込んでくる。未来もまた、彼の現在とはかけ離れている。
 パヴェウは果たして、みずからの手についた血を洗い流し、過去と折り合いをつけて、他者とのあいだに安定した関係を築くことができるのか。過去と現在と未来を結ぶ路線を敷設できるのか。主人公にとってその問いの焦点は、ある女性との関係に絞られていく。
 ばらばらになった過去と現在と未来の、どれが悪夢なのかも判然としない。そんななかでもがき続けるパヴェウたちの姿は、滑稽であると同時に、その滑稽さを一皮むけば、歴史に翻弄(ほんろう)された土地が抱え込んだ深淵(しんえん)があらわになるのだ。
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Tadeusz Konwicki 1926年生まれ。ポーランドの作家、映画監督。著書に『ぼくはだれだ』『小黙示録』など。2015年死去。
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菅原祥訳