ISBN: 9784065382516
発売⽇: 2026/04/22
サイズ: 13.1×18.9cm/288p
「半分の半分の半分」 [著]チョン・ウニョン
韓国で高い評価を得ている作家チョン・ウニョンによる連作短編集。話す者と聞く者、という構図が多用されているせいか、とにかくたくさんの声と物言わぬ耳の気配にあふれる作品だ。時に愛(いと)おしげに、あるいは疑わしげに、そして赤裸々に自らのストーリーを語るさまざまな声は、互いにくっつきあいながらも完全には溶けあわず、未舗装の生をボールのように弾む。
主に女性たちを中心とした家族関係を描く本書だが、老女二人組が日帰り旅行先で思わぬ出会いを果たす「雲丹(うに)」は、収録作のなかでもっとも物語的起伏に富む一編。ギスギスとして、嚙(か)みあわないのに途絶えない二人の会話からは、長く一つ屋根の下で暮らした女二人の濃厚に発酵した時間が滲(にじ)んで味わい深い。
この「雲丹」に登場する老女の一人ギルヒョンさんは、ほかの作品にもたびたび登場する。手作りの餅の恩義で人心を摑(つか)み、たいそう口が悪く、年下の姑(しゅうとめ)にすがりつかれながら息絶えるギルヒョンさんだが、作品ごとに微妙に背景の設定は異なる。作中に祖母として現れるギルヒョンさんにたいし、母として現れるのはミョンジャさんという女性だ。彼女もまた、作品によって異なる境遇を生きている。
訳者あとがきによると、ギルヒョンさんとミョンジャさんは、それぞれ著者の祖母と母の実名とのこと。ゆえにこの二人の女性が発する声に、ふたつの世代を生きた無数の女性たちの声を聞き取ることもできるだろう。表題作「半分の半分の半分」の語り手は、老いた体を輝かせて水浴びに興じるありし日の祖母の姿を、伯父たちの記憶に自分の想像を加えて思い描く。それは願望や祈りや後悔が混ざりこんだ、永遠に仮留めされるべき不純な記憶だ。でも、そんな混ぜものだらけの記憶にそっと息を吹きこみ続けることで、私たちは未知の祖母たち、母たちと再会することができるのかもしれない。
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Cheon Un-yeong 1971年、ソウル生まれ。2000年、作家デビュー。邦訳作品に長編『生姜(センガン)』。
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米津篤八訳