ISBN: 9784623100491
発売⽇: 2026/04/14
サイズ: 21.6×2.5cm/370p
ISBN: 9784130230872
発売⽇: 2026/07/02
サイズ: 18.8×2cm/352p
「アナール学派と歴史学の危機」 [著]ロジェ・シャルチエ/「歴史学の手引き」 [著]長谷川まゆ帆
20世紀、知の意匠を刷新し続けたフランスのアナール学派。その系譜の現在地を、対照的なアプローチから照射する2冊の著書が刊行された。
シャルチエ著『アナール学派と歴史学の危機 歴史家は断崖を歩く』が抉(えぐ)り出す危機の正体とは、歴史学における「客観性」の揺らぎ。過去の事実は復元可能なのか。歴史家の歴史記述といっても、それは単なる物語に過ぎないのではないか。言語論的転回以降、歴史家が抱え続けるこの苦悩は、学問の根底を脅かす深い葛藤として歴史学に重くのしかかっている。
しかし、シャルチエの結論は絶望ではない。歴史学はフィクションではなく、科学的手続きに基づき過去の真理を探究する学問であると再評価する。文書館への無批判な固執と虚構への逃避という両極を回避し、人間・社会科学との対話を通じて歴史記述の限界に挑み続けることこそ、歴史家の存在意義だと言う。
この厳格な真理への道標に対し、長谷川まゆ帆著『歴史学の手引き』は、歴史叙述が持つ人間性という血の通った足場を提示する。シャルチエら巨頭たちにも言及する長谷川が従来の方法論や潮流を深く踏まえていることは論を俟(ま)たない。その強固な理論的基盤の上でこそ、長谷川の言う「書くことの身体性」――書き手たる人間の心と体、息遣いや感受性、個別の経験や記憶――が、近年の感情史をも意識した次なる実践として説得力をもって提示されるのだ。
一見、科学的な客観性を担保しようとするシャルチエと、主観的な感受性を重んじる長谷川は対照的。だが、長谷川の手法は、シャルチエの言う断崖の理論を咀嚼(そしゃく)した上での、21世紀的な応答に他ならない。その縁で真理を追い求めるからこそ、書き手自身の息遣いという「手引き」が、記述を豊かにする指標となるのだ。両書の対話は、危機の断崖に立つ歴史学を再び人間的に歩き直すための確かな羅針盤となるだろう。
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Roger Chartier 1945年生まれ。コレージュ・ド・フランス教授▽はせがわ・まゆほ 立正大教授、東京大名誉教授。
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「アナール学派と歴史学の危機」は川口茂雄監訳