ISBN: 9784121101754
発売⽇: 2026/09/07
サイズ: 2.5×19.1cm/288p
「国会議事堂」 [著]佐藤信
2009年に政権交代があった時、政治記者として民主党(当時)の担当をしていた。衆院選で大敗した自民党。国会議事堂内に割り当てられ、長く使った控室である幹事長室を明け渡す姿には悲壮感が漂った。まさに城の明け渡しである。
部屋の新たな主となったのは、本書の登場人物でもある小沢一郎。かつて自民党幹事長時代に主だったその部屋に戻った小沢は、部屋を自分流に構築していった。小沢城の築城だった。
彼は場を政治力の発露、あるいは涵養(かんよう)として使った。同じ時期に国会の向かいにある国会議員会館も新築となった。小沢は自室の両脇を側近で固め、「小沢ガールズ」が集められた一角があった。私たちはそれを「小沢ガールズストリート」と名付けた。
本書の言うとおり、国会議事堂は「政治=空間」の場なのである。
立地から建設、内部空間の配置をめぐっては政局なみの権力闘争があった。日本近代建築の父と言われた著名建築家の辰野金吾らと、後の首相であり、当時大蔵次官だった若槻礼次郎らが争った。洋風に和洋折衷に仏教寺院風、議事堂計画はさまざまに描かれた。政党の控室をどの程度の広さにするかについて当時の衆院議長は、十分な空間が用意されなければ今後の議会で政府の議案が安易に否決されてしまうかも、と半ば脅迫めいた発言までしてのけた。
2回の焼失を経て、国会開設から46年たった1936年についに竣工(しゅんこう)する。竣工直前には二・二六事件が起こり、若手将校が建設中の議事堂に入り込んだ。
やがて太平洋戦争が始まり、日本各地は空襲を受ける。そんなさなかの44年、議事堂内の議員食堂では寿司や天ぷら、鰻(うなぎ)やトンカツが供されていた。飢えに苦しんでいた庶民と何たる落差。権力の館は国民の暮らしとはかけ離れていた。
空間は政治を象徴し、その磁力は政治を引き寄せ、変えるのである。
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さとう・しん 1988年生まれ。東京都立大教授(日本政治外交史、現代日本政治)。著書『近代日本の統治と空間』など。