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吉永龍太「モンスターバンケット」 科挙ならぬ「食挙」 異色のグルメ奇譚

『モンスターバンケット』(1) [著]吉永龍太

 ページを開いてまず、絵の密度と迫力に圧倒される。舞台は18世紀の清の都。異様に描き込まれた街並みから中国四千年の歴史と3億(当時)の人民パワーがあふれ出す。
 その驚異の筆致で描かれるのは異色のグルメ奇譚(きたん)。ここ一番で食せば願いが叶(かな)うという怪しい干物を食べて科挙に挑んだ主人公は、試験中激しい下痢に襲われる。結果は当然不合格。ショックでヤケ食いしていたところ、その食いっぷりに目をつけた謎の少女に連れていかれたのが紫禁城の地下。そこで彼が目にしたのは無数の男たちがひたすら饅頭(まんじゅう)を食う光景だった。
 食わねば死という、科挙ならぬ「食挙(しょっきょ)」に図らずも参加する羽目になった主人公。しかし、実は試験前に食べた干物こそあらゆるものを食い尽くす怪物「饕餮(とうてつ)」だった。その妖気を身中に孕(はら)んだ彼は人間離れした食欲を発揮、見物する官吏らの度肝を抜く。
 根は真面目だが調子に乗りやすい主人公は、食挙で成り上がることができるのか。饅頭、北京ダック、虎肉など、食の場面が圧巻のスペクタクルとして迫る。これはまさに奇想の満漢全席。中華とゴシックが融合したようなキッチュ感満点の画面を、隅々まで舐(な)めるように味わいたい。=朝日新聞2018年7月7日掲載