「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回は、井上荒野『キャベツ炒めに捧ぐ』に挑戦してみました。
舞台は、東京・私鉄沿線の商店街にある惣菜屋「ここ家」。飛びぬけて明るいオーナーの江子、愛想はないが実は繊細な麻津子、内向的な郁子といった、ワケありな独り身“アラ還”の女性たちが主人公です。
四季折々の食べ物とともに、彼女たちのせつなくも愛しい人生を三人それぞれの視点から描いた短編で構成されています。読んでいるだけで、お腹が空いてくること必至の一冊です。
「甘じょっぱさ」を食べる
そのうちの一編「桃素麺」に登場する「桃ソースのバミセリ」を作ってみました。
季節はクリスマス。麻津子は、病床の母親を前に母親が小学生の時にクリスマスパーティーで作ってくれた謎の料理「モモソーメン」の甘じょっぱい思い出を思い起こします。そして、麻津子はパソコンで見つけたレシピを参考に、母親が本来思い描いていたであろう、桃のパスタを作ってみることに。
できあがったものは進の言うとおり「甘じょっぱ」くてにんにくの香りに桃の風味が合体していて、デザートと言い張ることは難しく、じゃあカルボナーラとかペペロンチーノとかと同じようなものなのかと言われれば、どうにも自信がないのだった。
食べてみると、確かに、甘いのか、しょっぱいのか、どっちつかずの味。この味わいは、まるで麻津子の恋を表しているかのよう。思いを寄せる幼なじみの旬との関係も、この時点でははっきりしない感じです。ちょっとせつない気分になる一皿でした。