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「すべての、白いものたちの」 死者につながるものを集めて

評者: 都甲幸治 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月02日
すべての、白いものたちの 著者:ハン・ガン 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説

ISBN: 9784309207605
発売⽇: 2018/12/27
サイズ: 20cm/186p

すべての、白いものたちの [著]ハン・ガン

 人里離れた家で、女は一人で子を産む。助けを呼ぶこともできず、「しなないでおねがい」という祈りも虚しく、やがて娘は息を引き取る。真っ白な産着は、そのまま白装束となる。
 今や現代韓国文学を代表する存在であるハン・ガンは、そうした不在の物語のただ中で育った。もし姉が生きていたら、私はこの世にいなかったのだろうか。そして彼女は自分の魂と体を明け渡して、姉をこの世に呼び込む。
 きっかけとなったのは、半年におよぶポーランド滞在だ。かつてナチスに完全に破壊されたワルシャワを、人々は根気強く再建した。かろうじて残った土台や柱を使いながら、その上に同じ街をもう一度築いたのだ。彼らの粘り強い抵抗と哀悼の姿勢に学びながら、ハン・ガンは自分の心の内に閉じこもる。そして薄明の中、彼女は、会ったことのない姉の気配を感じる。
 本書には様々な白いものが登場する。降り積もる雪、洗い立ての寝具、寒い日の息。それらを彼女は丁寧に集めていく。なぜならそうした徴(しるし)は、あるものを指し示しているからだ。
 母から聞いた、まるで丸い餅のようだった、真っ白な姉の顔。何にも汚されることのない白さは私たちの中にもあって、白いものを見たときに内側から心を揺さぶる。そして、どんな人も生きていていいのだ、周囲から大事にされていいのだ、とささやく。
 断片的な文章や写真を集めたこの本は、死者を悼み、死者とともに生きることを巡って書かれている。僕が好きなのはこの挿話だ。亡くなった母親のために、森の岩の上で、真っ白なチマとチョゴリを弟と燃やす。やがて青い煙となってそれらは消えていく。
 「あんなふうに白い衣裳が空に沁み込んでいけば魂がそれを着てくれると、私たちはほんとうに、信じているだろうか?」。信じているかどうかは問題ではない。ただ、僕らは静かに、そうだと知っているのだ。
    ◇
 Han Kang 1970年、韓国・光州生まれ。作家。『菜食主義者』で2016年にマン・ブッカー賞国際賞受賞。