神秘と艶(つや)の織りなす極上の歌声、重厚華麗なギター、ひりつくドラム、健やかなベース。こんな音の群れが聞こえてきそうだ。『クイーン詩集 完全版』(シンコーミュージック・エンタテイメント 3240円、山本安見訳、石角隆行解説)は、英ロックバンド、クイーンの英語詩による163曲を網羅。オリジナルのスタジオ盤15枚と補遺14曲が対象だ。
前半期は、食人鬼や妖精たちの跋扈(ばっこ)が目立つ。代表作「ボヘミアン・ラプソディ」のオペラ的パートの、シュールな地獄法廷のような珍妙さ。愛し過ぎた者の妬心や悲傷にゆがんだ懊悩(おうのう)も綿々と述べられ、暗い血の衝動をはらむ曲も。ボーカルのフレディ・マーキュリーのインドクジャクのような姿も立ち上がってくる。後半期は、友愛や生命の輝きの尊さ、世界への絶望なども。このころのフレディは、あたかもベンガルトラが気炎を吐くかのようだった。
詩集は、あまたの映像や音声の輝かしい記憶の母胎となる、ロックも時代も超えた音楽家たちの聖跡集である。(米原範彦)=朝日新聞2019年3月30日掲載
編集部一押し!
-
コラム 朝日新聞書評委員の「今年の3点」② 高谷幸さん、田島木綿子さん、中澤達哉さん、野矢茂樹さん、藤井光さん、保阪正康さん 朝日新聞読書面
-
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第33回) さらに進んだ翻訳、日本文学は世界文学へ 鴻巣友季子
-
-
オーディオブック、もっと楽しむ 王谷晶さん「ババヤガの夜」オーディオブック化 朗読・甲斐田裕子さんと語る「主人公と疾走する気持ち」 阿部花恵
-
インタビュー 小川公代さん「ゆっくり歩く」インタビュー 7年間の母の介護、ケアの実践は「書かずにはいられなかった」 樺山美夏
-
韓国文学 「増補新版 女ふたり、暮らしています。」「老後ひとり、暮らしています。」人気エッセイ著者が語る、最高の母娘関係 安仁周
-
インタビュー 彬子さまエッセイ集「飼い犬に腹を噛まれる」インタビュー 導かれるまま、ふわりふわり「文章自体が寄り道」 吉川明子
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版