神秘と艶(つや)の織りなす極上の歌声、重厚華麗なギター、ひりつくドラム、健やかなベース。こんな音の群れが聞こえてきそうだ。『クイーン詩集 完全版』(シンコーミュージック・エンタテイメント 3240円、山本安見訳、石角隆行解説)は、英ロックバンド、クイーンの英語詩による163曲を網羅。オリジナルのスタジオ盤15枚と補遺14曲が対象だ。
前半期は、食人鬼や妖精たちの跋扈(ばっこ)が目立つ。代表作「ボヘミアン・ラプソディ」のオペラ的パートの、シュールな地獄法廷のような珍妙さ。愛し過ぎた者の妬心や悲傷にゆがんだ懊悩(おうのう)も綿々と述べられ、暗い血の衝動をはらむ曲も。ボーカルのフレディ・マーキュリーのインドクジャクのような姿も立ち上がってくる。後半期は、友愛や生命の輝きの尊さ、世界への絶望なども。このころのフレディは、あたかもベンガルトラが気炎を吐くかのようだった。
詩集は、あまたの映像や音声の輝かしい記憶の母胎となる、ロックも時代も超えた音楽家たちの聖跡集である。(米原範彦)=朝日新聞2019年3月30日掲載
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