編集者になったらどんな作家を手がけたいですか?出版社の入社面接では必ずこう聞かれる。
僕はジャネット・ウィンターソンとチャールズ・バクスターと答えた。面接官の何人かはたしかに顔をしかめたように思う。また文学趣味の学生か、と。
前者はイギリスのレズビアン作家。後者は「作家のための作家」として知られるアメリカの短編の名手。何度も読み返す、僕の血肉となった作家だが、商業的ではないのだろうか。
ウィンターソンは『恋をする躰(からだ)』を読んで夢中になり、他の作品にも手を伸ばした。なかでもデビュー作『オレンジだけが果物じゃない』は鮮烈だった。
主人公はほぼカルトに近い厳格なキリスト教の家に育った少女。彼女はやがて他の女の子を愛するようになり、狂信的な母とのあいだの軋轢(あつれき)が高まっていく。
この半自伝的小説は、当時僕が抱いていた同性愛への偏見を見事に吹き飛ばしてくれた。つまり僕の頭の中を一新したのだ。
これが小説の凄(すご)さだ、と知った。
バクスターの方は、入社数年後に長編『愛の饗宴(きょうえん)』を担当する機会に恵まれた。若い僕はこれは傑作だと意気込んだものの、期待したほどは売れなかった。
面接官が正しかったのだ。
最近では後輩が面接で名を挙げた作家の名をメモしている。彼らが運良くその作家の担当になっても、ヒットさせるのを見たことがない。
そういうものなのかもしれない。=朝日新聞2019年6月19日掲載
編集部一押し!
-
売れてる本 千野栄一「プラハの古本屋」 学問を楽しみ人や町と出会う 篠原琢
-
-
オーサー・ビジット 教室編 世界にひとつだけのヘンテコ・ワールド 絵本作家・宮西達也さん@山口県岩国市立修成小学校 安里麻理子
-
-
とりあえず、茶を。 正月淘汰 千早茜 千早茜
-
新作映画、もっと楽しむ 映画「架空の犬と嘘をつく猫」主演・高杉真宙さんインタビュー 家族も他人「噓に救われることもある」 根津香菜子
-
小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 永井荷風新人賞・湯谷良平さん 16歳でひきこもりに。「自分と小説しかない時間がありました」#33 清繭子
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 湊かなえさん「暁星」インタビュー 作家として「言葉」に向き合い、新たな扉開いた PR by 双葉社
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂