編集者になったらどんな作家を手がけたいですか?出版社の入社面接では必ずこう聞かれる。
僕はジャネット・ウィンターソンとチャールズ・バクスターと答えた。面接官の何人かはたしかに顔をしかめたように思う。また文学趣味の学生か、と。
前者はイギリスのレズビアン作家。後者は「作家のための作家」として知られるアメリカの短編の名手。何度も読み返す、僕の血肉となった作家だが、商業的ではないのだろうか。
ウィンターソンは『恋をする躰(からだ)』を読んで夢中になり、他の作品にも手を伸ばした。なかでもデビュー作『オレンジだけが果物じゃない』は鮮烈だった。
主人公はほぼカルトに近い厳格なキリスト教の家に育った少女。彼女はやがて他の女の子を愛するようになり、狂信的な母とのあいだの軋轢(あつれき)が高まっていく。
この半自伝的小説は、当時僕が抱いていた同性愛への偏見を見事に吹き飛ばしてくれた。つまり僕の頭の中を一新したのだ。
これが小説の凄(すご)さだ、と知った。
バクスターの方は、入社数年後に長編『愛の饗宴(きょうえん)』を担当する機会に恵まれた。若い僕はこれは傑作だと意気込んだものの、期待したほどは売れなかった。
面接官が正しかったのだ。
最近では後輩が面接で名を挙げた作家の名をメモしている。彼らが運良くその作家の担当になっても、ヒットさせるのを見たことがない。
そういうものなのかもしれない。=朝日新聞2019年6月19日掲載
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