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「図説 ヴィクトリア朝の女性と暮らし ワーキング・クラスの人びと」 初等教育義務化による変化とは

ミシンの登場と家庭への普及を示す絵

 文学を通じて知る19世紀イギリスのありようは主に上・中流階級のものだが、本書はワーキング・クラスの、しかも女性に焦点を当て、彼らの文化を豊富な絵と写真とともに解説する。とりわけ興味深かったのは、すべての子どもに初等教育が義務化されたことによってもたらされた社会変化だ。産業革命後の新しい仕事にも役立つスキルとしての「読み書き算数」を身につけさせることが目的だった教育改革は、彼らに読書の楽しみを与え、のちに高等教育を得る機会、より良い労働条件や参政権を獲得するための運動へと結びついた。この階級の女性は生活のために働くが、その職種は多岐にわたり、ライフステージによっても変化する。お針子の増加によってテイラーの徒弟制が崩れる話は、1990年代に日本の写真界で起きたことと似ているし、大量生産される既製服がお針子の仕事を「苦汗(くかん)労働」化した歴史は、デジタル時代の写真家が直面している問題と驚くほど似ている。=朝日新聞2019年9月7日掲載