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#33 「日本の味」が恋しくて モロッコ・カサブランカ

モロッコのカサブランカにあるハッサン2世モスクは、ぜひ訪れていただきたい

 海外を長く旅していると、猛烈に身体と心が「日本の味」を求める瞬間がやってくる。個人的には、第一波はだいたい2週間ぐらい。短いスパンだと1週間ぐらいで、脳裏にぼんやりと味噌汁や牛丼なんかが浮かんでくる。

 一方で、せっかく旅をしているのだから、旅先のローカル料理を食べなければという謎の使命感がある。インスタントの味噌汁やカップヌードルを大量に持参するのも、どこか“負け”な気がして、何の“応急処置”も持たず旅に出る。まあまあ厄介な人間である。

 世界一周をしているときは、1カ国あたり3〜12日間ぐらいの滞在期間で切り替えが早かったので、すぐには食に関して飽きが来なかったのだが、旅を続けて1ヶ月ほど経ったモロッコのカサブランカという街で、それは突然やってきた。「Japanese Restaurant」の文字を見た途端、舌が震えたのだ。メニューもろくに見ず、本能的に店に入る自分がいた。

 ランチとディナーの間の時間だったこともあるのだろうが、100人ぐらい入れそうな広い店内で、客は私一人。一抹の不安を覚えたが、Sashimi、Futo-Maki、Unagui…と一応日本食らしいメニューが書かれていて、とりあえず「店のおすすめ」をオーダーした。

カサブランカで出てきた、創作された巻き寿司

 結構な時間待たされて出てきたのは、いわゆる創作された巻き寿司だった。アボガドととびっこのようなものがトッピングされた巻き寿司と、タレをかけすぎてベタついたウナギ巻き。一列に並んだその盛り付けは芸術的で、シェフの努力が垣間見えた。

 これは本当に「日本の味」なのか。モロッコの人はこれを「日本」だと思うのか。いろいろと突っ込みどころはあったが、胃袋の欲求は満たされたので、まぁよしとするか。

 帰り際、ウェイターは私が日本人だと知ると、たいそう喜び、「日本人が食べてもおいしい本格的なレストランであることを紙に書いてほしい」とねだってきた。葛藤が生まれる。このレストランの「日本の味」を私が保証するのかどうか。ウェイターはそこまで深く考えていなかったのだと思うが、そこまでの責任を負えない。将来、私のようにモロッコを旅しているときに突然「日本の味」を求めた旅人をがっかりさせるのも申し訳ない。迷った挙句、「おいしかった。また来るわ」なんて、ジャパニーズなお世辞だけを言い放ち、店を出た。

モロッコではタジン鍋の料理をよく食べた。やさしい味で、日本人の口にも合うとは思うのだが、毎日だと流石に飽きる

 漫画家のヤマザキマリさんが書いた、食にまつわるエッセイ集『パスタぎらい』(新潮社)を読んだ。17歳から35年にわたりイタリアに住んでいるヤマザキさん。これまで食べてきたイタリア料理や日本食を始めとする世界の「食」を考察しながら、食への愛と執着が詰まったエッセイが書かれている。その本の中で、こんな記述を見つけた。

海外で生活をしていると、よく日本の人から「お寿司や天ぷらが恋しいでしょう」なんて聞かれるが、正直そんなものよりも圧倒的に食べたくて我慢ができなくなるのはラーメンだ。日本を訪れた海外からの観光客に好まれるのもラーメンだという。うちのイタリア人の夫も、日本に暮らした経験のあるポルトガルやブラジルの友人も、ラーメンの話になると恋する乙女のような潤んだ瞳になって、「あれは日本における最高の料理だよ……」と味覚の記憶に酔いしれる。(39-40ページ)
国によって寿司の解釈や楽しみ方はそれぞれでいいと私は思うのだが、それにしても昨今の寿司の外交力と現地適応力には感心するばかりである。寿司を擬人化した漫画でも描いたら面白いことになりそうだ(48ページ)

 海外の「日本の味」をフィーチャーした旅も、なかなかにクレイジーで面白いかもしれない。独自の進化を遂げたモロッコの寿司を、今は懐かしく思い出す。

ちなみに今まで食べた海外の「日本の味」で一番美味しかったものは、メキシコのメキシコシティで食べたカツ丼だ