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くせさなえさんの絵本「ゆびたこ」 やめたいのにやめられない、そんな自分を応援する妖精

文:柿本礼子、写真:北原千恵美

――指しゃぶりがやめられない女の子。指には吸いだこもできている。本当はもうやめたいのに……。ちゅうちゅう指を吸っているうちに、ゆびたこに顔が生まれて喋り出した! 「吸ってや〜」と話しかけるゆびたこの誘いを「吸わないもん!」と突っぱねる女の子。やがて指のたこは少しずつ小さくなって……。インパクトのあるイラストが人気を呼び、この絵本で「指しゃぶりがやめられた!」と評判になったくせさなえさんの『ゆびたこ』(ポプラ社)。2013年に出版され、以来17刷を重ねている。

 描いている時は「(絵本を読んで)指しゃぶりをやめさせたい」という気持ちは全然なかったです。だから出版されてからそんな反響があることに驚きました。最初はほんまに、自分が子どもの時に指しゃぶりがやめられなくって、そんな自分を応援するような気持ちが大きかったんです。

 大人になっても、やめられないことってあるじゃないですか。やめたいのにやめられなかったーっていう。そういうことを考えていた時に、もし近くで見ててくれる誰かとか、見張って注意してくれるような何かがいたら、自然にやめられたかもしれないなーと思って。そういうことを思っていた時にふと、「指のたこがしゃべったら面白いかもな」と。

出版前に作ったダミー本。絵はほぼ変えてない

 最初は王子様っぽいキャラにすることも考えていました。かっこいい系で励ましてもらえるのもいいかなと。迷っていた時に、このゆびたこのキャラっぽい人と出会いまして、その人が喋ってはるときの顔を見ながら「このキャラやー!」と。憎めへんけど怖い、怖そうやけどおもしろい、という人に出会って、そこからキャラが決まってストーリー展開が一気に書けました。

――この作品はもともと「ピンポイント絵本コンペ」に出したもの。入選し、原画展を開くとポプラ社の編集者の目にとまり、絵本の出版に結びついた。

 絵はほとんど同じですが、文章は結構変えて、子どもの健気な感じが伝わるようにしています。ゆびたこの表情も優しくしましたね。最初の原画の段階では、夢に出るんじゃないかと指摘を受けまして(笑)。描く時は、とにかく優しく優しく、と思って描きました。

 自分としては、普通に「おもろいやつやー」というか、憎めへんキャラとして描いていたつもりやったんですが、本が出てレビューを見たら「怖いー」って書かれていて、友達も「(書店で)怖い本のとこに『ゆびたこ』が置いてあったで」と教えてくれて。え、そうなん?とビックリしました。

 グループ展でゆびたこの絵本を置いていた時、出展者の絵本作家・シゲタサヤカちゃんのご親族が、お子さんと来てくれたんです。そしたらその子が『ゆびたこ』を真剣に見てはって、最後帰るときも「この本買ってくれるっていった……」とお母さんに言わはって。子どもにすごいインパクトあったんだよ、とサヤカちゃんが教えてくました。そういえば赤ちゃんも原画展でじーっと見てはったりする。アンパンマンみたいな感じで見てはるんかなあ……。

 読書カードで感想を送ってくれた人たちには、お返事で「ゆびたこは怖くないんやでー」って描いて、ゆびたこのいい人アピールをしています(笑)。いろんな捉え方をすると思うけど、あまり「怖いー」ってなってしまうよりは、親御さんとか、一緒に読んでくれはる人がフォローしてくれたら嬉しいです。ゆびたこは一種の妖精で、本当はいいやつなんやで、と。

読んで安心できる絵本を作りたい

――滋賀県に生まれ、大学で美術を学んだ。大学卒業後、一度はデザインの会社でテキスタイルの仕事をしていていたが、ずっと絵本作りが頭から離れなかったという。

 小学3年生の時に、美術の時間にお話に絵をつけるというのがあって、それがすごく楽しかったんです。絵本作家になりたいと思った原点は、多分あそこだと思います。卒業文集に「童話作家になりたい」と書きました。

 高校まではあまり絵と関わりのない生活を送っていましたが、高校2年の頃、美術研究所の先生が美術の授業をやってはって、その時に研究所に来いやーと誘ってくれたんです。「もしかして才能ある?」と調子に乗って、そこから美術大学を目指しました。当時は絵本コースがあって、そこに進学したんです。

 大学卒業後は就職しましたが「就職して5年間、絵本作家になりたいという気持ちが続いたら考えよう」と密かに心に決めました。5年目だったかな、京都の絵本の学校に通い始め、そこで絵本の基礎から、いろんなことを教えていただき、一気に独立へと心が傾きました。当時勤めていたテキスタイルデザイン会社は雰囲気もよくて仕事のやりがいもあったんですが、絵本でやっていきたい気持ちが一気に膨らんで、覚悟を決めました。

 数年前から描きたいと思っているのは「見え方」のお話。見え方で、こういう風にも、ああいう風にも見えて、自分がどういう風に感じるかは自分で決められるんだよ、と。身内に認知症の人がいて、介護をする中で、赤ちゃんとお年寄りって似ているんだなあと感じたことも、絵本で表現できたらと思っています。

 絵本のテーマによってメッセージは異なりますが、基本的には「大丈夫だよ」というか、読んで安心してもらえるメッセージを伝えたいです。生き方のテーマみたいなのを、子どもの頃の記憶を思い出したり、子どもと一緒に遊んだりする中で、徐々にテーマが具体的に物語になって結びつくという形で制作をしています。