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フルポン村上の俳句修行 河童ワールドを詠んで・詠んで・詠みまくる秘密結社に潜入

文:加藤千絵、写真:斉藤順子

 「くれぐれも『だって見たんだもん』なんていう句を詠まないように」。尻子玉俳句会を主宰する近恵(こん・けい)さんに取材依頼すると、そんなメールが返ってきました。河童が好んで引き抜くと言われているお尻の玉「尻子玉」を冠する句会のテーマは「妄想」。俳句として成立していることはもちろん大事ですが、同時に河童とか、地底人とか、宇宙人とかが存在するという前提で詠む、もしくはそれらの目線に立って詠むことが求められます。近さんのメールは続きます。「参考までに、昨年の暮れに行われた『尻子玉争奪杯』で私が出した句です。なまはげの尻子玉です買いました→争奪杯優勝句」

 近さんが、かくのごとく奇天烈な句会(失礼)を始めたのは7年ほど前だと言います。「当時『森ガール』が流行っていたんですけど、(俳人の)太田うさぎさんと『私たちは沼よね』と話していて。河童が生きていると思いたい方のメルヘンだよねって。それでmixiのグループを立ち上げて、妄想に賛同するメンバーを集めたんです」

「尻子玉俳句会」を主宰する近恵さん

 ちなみにメンバーは現在12~13人。その中の一人、山崎志夏生さんいわく「みんなふだんは真面目な俳句を詠んでいる」人たちで、近さん自身も2007年から「炎環(えんかん)」という結社に所属して、技術を磨いています。尻子玉俳句会を開くのは「役に立たないことをまじめにやる」ため。年末にオンラインでタイトル戦「尻子玉争奪杯」を行う以外、句会の頻度は1シーズンに1回。「回数が多くても、ここで作った句は(ほかの句会や賞レースなど)どこにも出せないので、細々と続けていければという感じですね。というか秘密妄想結社なので、こうやって表に出るのもどうなの!?」と笑います。

 11月30日の句会で、事前の提出が求められていたのは当季“妄想”雑詠5~10句でした。「本当に河童がいたとしたらどんな生活なんだろうって落とし込んでいったら、意外と楽しかった」という村上さんが作ったのは以下の6句です。(原文ママ)

  • 父に似てきた水掻きやオリオン座
  • 手を組んで死んでる河童十二月
  • 林道の廃UFOに冬苺
  • アイコスを咥えた河童寒日和
  • 双六の駒にんげんの形して
  • 調査終え地球土産のブロッコリー

 午後7時半、東京・中野の台湾料理屋「味王」の円卓を囲んだのは、村上さんを含めて8人でした。それぞれが事前に提出した計74句の中から、特選1句を含む10句前後を選んで発表していきます。テーブルにはビールとザーサイ、ピータンそして豚のミミ。

恵:人気句がありましたね。「人造の子どもたちくじらとりにゆく」。じゃあ、うさぎさんから句評おねがいします。ごめん、食べてた?

うさぎ:なんか小説っぽい。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を思い出して。人造ってところがすごい寒々しくて。冬の海で捕鯨船に乗っているのがぜんぶ人造の子どもたちっていうところがとてもステキでした。

志夏生:クローンなのかロボットなのか。やっぱ寒々しさっていうのがいいと思いました。

笹木くろえ:色彩がこれ、モノクロームなんですよ。絵を描くとしたらモノクロームか点描かなって。唯一の難は中八(五七五の七が八)なんですよ。だけどこれは読み方を工夫すれば気にならないかなと思って特選にしました。とにかく詠まれてる内容に非常に惹かれました。

村上:みなさんがおっしゃるように映像がすごくきれいというか想像できるのに、しかも物語性があって、子どもだし人造だしクジラだしっていうのがいろいろと考える余地があるのが楽しいなと思って特選で取りました。

恵:どなたの句?

前田凪子:凪子です。

一同:お~!!

 次に、特選1人を含む3人の選を集めたのは、村上さんの「調査終え地球土産のブロッコリー」でした。

うさぎ:こういう異星俳句大好き。ほかの星から地球を調査しに来たんですよね。こんなものがあるって。ブロッコリーって、あの緑の感じが地球っぽくていいんじゃないかな。

上野葉月:ごめんなさい、ブロッコリーは季語なの?

うさぎ:冬の季語かと。

葉月:最近よくブロッコリーの句見るから、あのフラクタルな感じが好きで取ってしまうのだけど、季語なんだ。

凪子:特選で取ったんですけど、ブロッコリーが地球の木をミニチュア化した感じじゃないですか。だから地球にはこういう植物があるよ、っていうのを教えるために持っていってるのかなって。物語性があっていいなと思いました。

うさぎ:(村上さんと凪子さんは)特選の取り合いだ。

志夏生:やだね、なんかね。

一同:(笑)

 早々に紹興酒の瓶が開き、揚げ茄子のニンニクソース、サンラータン、豆苗炒め、蒸し餃子、千切り豆腐と料理が運ばれてきます。尻子玉俳句会の名物、河童の句もとりどり出そろいます。

  • セーターは甲羅の内側の匂い(恵)
  • 木の葉髪と言うて下向く河童かな(志夏生)
  • 今年も終るゼ闇鍋からキュウリ(カサイアコ)
  • 気に入りのコートけなされ尻子玉(くろえ)
  • 冬至湯がうつすら緑皿浮いて(うさぎ)
  • 時折は恋の生まるる捕鯨船(葉月)←BL俳句

 村上さんの「手を組んで死んでる河童十二月」は4人の選に入る人気ぶり。河童界の身分制度にまで話が広がりました。

くろえ:これは心中ものですよ。道行きなんですよ。紙吹雪が舞っちゃってもおかしくないと思うの。十二月にお芝居見てる感じがして、私は好き。大歌舞伎的な。

うさぎ:私は単体だと思ったんですけれども。こうやって(指を組んで)死んでるんだと思った。

恵:「ツイン・ピークス」みたいな感じよね、あれ想像しちゃう。

うさぎ:なんかでも、これはかなり人体に近い河童。河童の中でも高貴な河童なんだと思う。

くろえ:ヒエラルキーがあるんですね。かわいそうやん。

恵:ミイラにされるような感じ?

うさぎ:河童の王様。で、水葬とかされるのかな。

一同:水葬~(笑)

追加のビール、レバニラ、チャーハン、杏仁豆腐

恵:ブラ跡はうすみどりなる湖底妻(凪子)」。志夏生さんと村上さんがお取りになってます。

志夏生:なんとしょうもない句! この句会以外ではどこにも通用しない感じがする。湖底妻っていうのがいいよね。本妻じゃない感じがするよね。

一同:(爆笑)

志夏生:湖底でさ、「芋の煮っころがし煮たから来て」みたいなメールが来る。湖底妻から。そのブラを外してあげたときに、薄緑なんだよね。

恵:ちょっと締められていて。

うさぎ:なんか日活ロマンポルノの味がするよね。

村上:僕は「湖底妻」っていちいち言うってことは、河童じゃない人が旦那さんなのかなって。俺の妻は湖底にいるっていう。

志夏生:通い婚なんだね。

山崎志夏生さん

句会が終わり、さらに1.5本の紹興酒が開く

恵:今日はどうでした? 投句を見たときは結構がんばったんだな、って思いました。

村上:最初言われた時は、どうしたらいいのか分かんないっていう。河童って書いたら河童の句なのは分かるんですけど、河童目線ってなるとこの句会じゃなかったら「何言ってるの?」っていうのがどこまでOKなのかとか。

恵:外には出せない句です。

村上:でも、見たことないもののディテールを書くって、最初はちょっとむずかしかったんですけど、それをどっかの映像にはめていくと楽しかったですね。

恵:だんだんいる気になってくるでしょ?(笑)

村上:5~10句提出って、みんないっぱい出してきちゃうから上限がついてるって言われてて、その意味が分かりました。

志夏生:おかしくなってくるでしょ。

村上:この句会だったら、あんまりダメなの出しても自分の感性傷つかないかな、っていう。

一同:(爆笑)

村上:何でも出しちゃえ、っていう。その中でいいのが当たればラッキーくらいの感覚だから。確かにいっぱい出したくなるのはなんか分かりました。

恵:でも真剣にやってるよね。

村上:それは楽しいし、河童が聞いたら喜ぶだろうなっていう。僕、地元が河童の里みたいなのを自称してるんで。

志夏生:じゃあぜひ、今日の句の中からプレバトに1句!

村上:河童感は、出せないですよね・・・・・・。

【俳句修行は次回に続きます!】