羽田空港から、石垣島まで飛行機で3時間半。空港から港までバスで30分、さらにフェリーで45分。大移動の末、私は今、西表島にいる。東京はすっかり冬になったが、西表島は1日の平均気温が20度ぐらいなので、まだまだ暖かい。
西表島は沖縄県内では本島に次いで2番目の大きさであるが、島の9割が亜熱帯の原生林で占められている。小さな個人商店はあれど、24時間営業のコンビニはない。島の半周だけ、道路が整備されてはいるが、外灯も信号も数えるほどしかない。手つかずの自然がここにはある。
浦内川という川で、トレッキングをした。両岸にマングローブ林を眺めながら、遊覧船に乗って、川の上流まで行く。そこからひたすらに山道を歩く。目的地は、日本の滝100選に選ばれている「マリユドゥの滝」(マリは「丸い」、「ユドゥ」は「淀」という意味で、丸い滝ツボからこの名がついたらしい)、そしてその上流にある「カンピレーの滝」(「神の座」や「神々の交際」を意味するという)。観光客が訪れるトレッキングコースとはいえ、携帯電話の電波は通じない。聞こえるのは、自分の足音と、水の音。そして、時折何かの鳥の声だけだ。
歩きながら、イリオモテヤマネコに会えるかもという淡い期待を抱いていたが、会えなかった。さすが、国の特別天然記念物で、100頭ほどしかいないと言われているだけある(島民でも遭遇したことのない人が多いらしい)。突然の雨にもやられたが、往復約2時間のトレッキングを満喫する。
夜は、居酒屋へ。そんなに選択肢もないのだが、「居酒屋よっしー」という、如何にもローカルな感じがするお店を選ぶ。西表島で育った店主の「よっしー」と、神奈川県内から島に“出稼ぎ”に来ているという刈り上げの女性がもてなしてくれる。オフシーズンということもあって、店は貸切状態だ。島魚の唐揚げ、豆腐を使った発酵食品「豆腐よう」、ゴーヤチャンプル。どれもこれも、出来たてで、とてもおいしい。どの泡盛がうまいかとか、思春期の子育ては大変だとか、そんな他愛もない話をしながら、郷土料理をつまむ。この幸せは、何物にも代え難い。
沖縄在住の編集者・カメラマンのセソコマサユキ氏が書いた『石垣 宮古 ストーリーのある島旅案内』(JTBパブリッシング)。この本は、八重山諸島にあるお店や、そこで生きる人々を取り上げた、写真集のような、ガイドブックのような、インタビュー本である。そこで見つけた一文にとても共感した。
時間が進んでいくスピードはどこにいたって変わらないはずなのに、離島に滞在していると、それがゆっくりと感じるのはどうしてだろう。何からも急かされず、心がゆったりとした感覚。良い意味で「てーげー(適当)」で、肩の力が抜けたしまんちゅ(島の人)たち、いつまでもただぼんやりと眺めていたくなるような海の青さなど、そういういろんな要素があいまって、滞在する人の心まで、緩やかにしてくれる。
都会のあくせくした日常にうんざりしたら、島旅をするといい。全力疾走でスピードを出しすぎていた自分を労わることができるし、自分の今を見つめ直す時間にきっとなる。また疲れたらここに来よう。私はそう思う。