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西 加奈子『さくら』のプリンアラモードを動画で味わう

「恋」を食べる 西 加奈子『さくら』

 「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。

 今回味わうのは、西 加奈子『さくら』の世界。この秋に映画公開も控えている作品です。

 長男の交通事故をきっかけに、バラバラになってしまった長谷川家。そんな家族を変わらず見守ってきたのは一家の愛犬・サクラでした。絶望の淵に立たされた家族がゆっくりと再生していく、愛と希望の物語です。

「恋」を食べる

 兄の死後、東京の大学に進学した長谷川家の次男、薫。ある日、家出していた父親から手紙が届き、家族みんなで再会を果たすべく実家に帰ります。久々の地元で頭をよぎっていくのは、兄をはじめとした家族、愛犬・サクラや友人らとの思い出たち。そんな薫の回想で物語は進んでいきます。

 その中から今回は、薫の大好物、喫茶店「より道」のプリンアラモードを作ってみました。

大きなお皿に、僕の拳ほどもあるプリンが乗り、嫌がらせみたいに生クリームで飾り立ててある。フルーツは傷んだバナナと缶詰の桃だけ、なんとも色彩に乏しいアラモードなのだけど、全く歯ごたえの無いそれは僕の理想をぴたりと満たしていて、三日にあげず通っていた。

 プリンは市販のビッグサイズのものを用意し、大きなお皿の余白をフルーツと生クリームで埋め尽くしていきます。見た目はなかなか質実剛健なたたずまいに仕上がりますが、甘党ならこの組み合わせには不満はないはず。これぞ薫が言うところの「潔い」プリンアラモードというものができあがります。

 ところが、薫にとっては理想の形であったこのプリンアラモードも、ある出来事がきっかけで苦手なものへと変わってしまいます。高校時代のある冬の日、「お前の妹、レズなん?」と同級生に質問された場所が、喫茶店「より道」の目の前だったのです。

「より道」の前であの話を聞いてしまったことで、プリンアラモードとミキの恋が、僕の中で直結してしまったのだ。

 食と思い出がつながる経験は誰しもあること。その経験が強烈であればあるほど消えにくいはずです。かくいう私たちも、しばらくはプリンアラモードを見るたびに『さくら』を思い出すことでしょう。