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「アメリカの世紀と日本」書評 「不自然な親密さ」の起源と現在

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月14日
アメリカの世紀と日本 黒船から安倍政権まで 著者:ケネス・B・パイル 出版社:みすず書房 ジャンル:外交・国際関係

ISBN: 9784622089360
発売⽇: 2020/09/03
サイズ: 20cm/458,54p

アメリカの世紀と日本 黒船から安倍政権まで [著]ケネス・B・パイル

 次の米大統領がほぼ確定した。だが誰になっても、超大国の圧力をひたすら避ける日本政府の低姿勢は変わりそうにない。この両国関係はいかに作られたか。米国の日本研究の泰斗が、長年の観察から日米双方に辛辣(しんらつ)な評価をくだす。
 著者は、米国が日本との開戦後、早くから突きつけていた無条件降伏政策を、この関係の起源と見る。敵の全面的服従と米国的価値観の再教育を目指す「空前の戦争目標」は、かえって戦争を長引かせ、戦後も日本の主体的選択を阻む同盟関係を生んだ。その妥当性が、率直に問い質(ただ)される。
 「押しつけ」憲法論の側にとり、これは意外な援軍だろうか。だが批判の焦点は、冷戦に勝つためなら岸信介のような「旧秩序そのもの」と馴れ合う米国のご都合主義にある。日本も従属と引き換えに経済成長の果実を得た半面、依存ゆえの反発はくすぶり続けた。この「不自然な親密さ」が戦後日本にいかに作用したか、分析は多方面に及ぶ。
 75年前、別の未来はなかったのか。占領軍の強制がなくとも、戦前以来の政治経験や戦争の辛苦から、日本側の「改革の可能性が結集されただろう」。妥協的で時間がかかっても、自らの責任でその結果を引き受けるべきだった。
 改革のお仕着せは、民主主義を自ら「勝ち取る」機会を奪った。日本は依然、保守エリートに統制され、個人の尊重は弱い。抗議の「華々しい実績」がある一方で、市民運動は「国家に取り込まれてきた」。
 著者の見立ては、日米のどの立場も全面的には満足させない。その反応こそ、両国の自他認識の分裂やごまかしを、本書が冷徹に解き明かした証拠と言える。
 これだけ米国に干渉された日本でさえ、米国のコピーにならなかった。世界はやがてアメリカモデルに収斂(しゅうれん)するという単線的な文明観から自由になること。ますます不透明となる将来への警告として、本書が示唆するのはこの点だ。
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Kenneth B, Pyle 1936年生まれ。ワシントン大名誉教授(歴史学、アジア研究)。著書に『欧化と国粋』など。