山田航が薦める文庫この新刊!
- 『短歌ください 明日でイエスは2010才篇』 穂村弘著 角川文庫 748円
- 『詩人・菅原道真 うつしの美学』 大岡信著 岩波文庫 660円
- 『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』 原武史著 講談社学術文庫 1331円
(1)は「ダ・ヴィンチ」に長く連載されている、穂村弘選の短歌コーナーをまとめたもの。10代、20代の投稿者が大半を占めているのが大きな特徴で、ユースカルチャーとしての口語短歌の最前線がここにある。投稿者の中には木下龍也、鈴木晴香、工藤吉生、寺井龍哉など今では新進歌人として注目される名前もある。
わたしたち切れてるチーズあなたたち裂けるチーズね、等の応酬(冬野きりん)
当時20歳のこの作者は、現在はハイパーミサヲの名で活動する女子プロレスラー。穂村弘が構築した美学が、短歌を超えて幅広いジャンルに浸透していることを感じさせる。
(2)は菅原道真の漢詩をメインに扱った評論。天神様としての道真はあまりに有名だが、漢詩人としての道真が語られることは少ない。しかし古代日本のモダニスト詩人として、きわめて重要な存在だったと論じられる。キーワードとなっているのは「うつし」。「移し」を原義として「写し」や「映し」に転化していった。あるものを別のものへと変化させてゆく動きと調和に美を見いだす精神をもって、漢詩文を大和言葉の文芸へと転換させていった。それが詩人道真の一大功績だった。
(3)は、鉄道ファンの政治思想史家の面目躍如といえる一冊。「私鉄」を都市計画思想の中核に位置づけて、大阪の近代史を論じる。大阪の中でも、合理主義的な「キタ」を象徴する阪急電鉄と、浪曼(ろまん)主義的な「ミナミ」を象徴する南海電鉄の好対照への指摘が面白い。=朝日新聞2020年11月28日掲載