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片山夏子「ふくしま原発作業員日誌」 誇りと葛藤、細部を重ね肉薄

 著者は東京新聞の記者。震災から4カ月後、原発班に異動になり、作業員の取材を始めた。

 彼らの口は一様に重い。なぜなら報道取材には答えないよう、箝口令(かんこうれい)が敷かれていたからだ。そんな中、時間をかけて人間関係を構築する地道な取材がはじまった。

 本書の特徴は、作業員目線で日常のリアリティーを描いていることにある。彼らが直面する具体的な問題を丁寧に取り上げ、ディテールを積み重ねる。そこに生々しい現実が立ち上がる。夏場の作業員にとって最大の問題は、全面マスクの中の汗だ。マスクを取ってぬぐいたいが、そんなことをすると放射性物質が入り、内部被曝(ひばく)してしまう。水分補給もできない。常に熱中症との闘いを強いられる。

 彼らはなぜ、そんな過酷な環境で働くのか。理由は様々だ。日本の命運がかかっている仕事への誇りを語る人もいれば、割のいい日当が目当てという人もいる。多くの作業員は、家族と離れて生活している。仕事のストレスから、仲間と街に飲みに出ると、時に羽目を外し、暴力を伴うトラブルを起こすこともある。そうすると、地元の人たちから警戒のまなざしを向けられる。福島のためと思って頑張っているはずが、地元との距離が生まれてしまう。

 下請けの多重化が進むと、仲介業者のピンハネが横行する。参入する企業が増えると理不尽な解雇も出てくる。作業員は語る。「俺たちは使い捨てだから」

 彼らの被曝線量は年度ごとに管理されており、年度末を越えれば次の年の線量枠が与えられる。作業員はこれを「線量がリセットされる」と表現する。一方、年度の線量を超えると容赦なくクビになる。ベテラン作業員が次々に現場を離れると、経験値が蓄積されない。リスクが高まる一方になる。

 誇り、不安、葛藤、怒り……。二律背反する感情がない交ぜになりながら、過酷な日常が続く。

 真実は細部に宿る。そのことを実感させられる一冊だ。=朝日新聞2021年2月27日掲載

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 朝日新聞出版・1870円=6刷1万2千部。20年2月刊。講談社本田靖春ノンフィクション賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞(公共奉仕部門)奨励賞受賞作。