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モノクロの名手がまとめたカラー写真の懐かしさ 北井一夫「COLOR いつか見た風景」 

北井一夫『COLOR いつか見た風景』から

 モノクロとカラー。どちらの写真に、より強く懐かしさを感じるか。この写真集を見ながら考えたのは、そのことだ。世に登場した順番は、モノクロ、カラーなのだけれど。

 デモや基地闘争から農村風景までを撮った北井一夫(76)は本人が記す通り、モノクロ作家のイメージが強い。しかし掲載されているのは、グラビア誌に依頼されたがゆえの、主に1970年代のカラー作品なのだ。

 ああ懐かしい。そうつぶやきそうになる。モノクロがある光景をガチッと定着するのに対し、本来はリアルな描写のカラーは次第に退色し、時間の揺らぎがあるからだろうか。

 でも実は、風景だけの写真を見ると、ほとんど退色は感じられない。人々の服やモノのデザインが古びていることもあるが、「退色の予感」が懐かしさを誘うとも思える。いや何より、カラー独特の柔らかな光、穏やかな空気が、ある時間の幅を捉えるのだろう。モノクロの名手のカラーに、そう思うのだ。=朝日新聞2021年9月18日掲載