そうだ、星は道標だった――。読後、そのことがすっと胸に落ちてくる。
第百六十七回直木賞受賞作である本書は、星や天体をモチーフとした五編からなる短編集で、どの作品にも寄る辺なさをかかえた主人公が登場する。
三年前、一卵性双生児の妹を脳内出血で喪(うしな)った三十二歳の綾(あや)。夏休み、海で出会った年上の女性に惹(ひ)かれてしまう高校生の真(まこと)。クラスでいじめにあっている中学生のみちる。妻が娘を連れて家を出て行った三十七歳の沢渡(さわたり)。両親が離婚後、父の再婚相手と赤ん坊の異母弟と暮らす小四の想(そう)。年齢も背景もばらばらな彼らだが、うち二編、綾と想には、コロナ下という状況が共通している。
彼らはみな、ままならない日々を送っている。妹を喪い、コロナで人と会う機会もなくなり「さびしんぼうの王様」になってしまった綾は、婚活アプリで恋人を探す。異母弟は可愛いし、新しい母親のことも嫌いではないけれど、実の母親とは三カ月に一度しか会えないことが辛(つら)い想。自分とは逆で、離婚後に母親と暮らしているクラスメートの中条(ちゅうじょう)くんは、父親といつでも気軽に連絡がとれていて、そのことが羨(うらや)ましい。電車で十分の距離にある塾通いは好きじゃないけれど、「母さんの住む町で勉強をしている、ということが僕はうれしかった」という言葉に、母を慕う気持ちが詰まっている。
寂しい心をひっそりと抱えつつ、けれどその寂しさを誰にも言えずにいる彼らの姿は、今の今、先が見えない日々の只中(ただなか)にいる私たちに重なっていく。絡みついてくるような不安や、自分だけが取り残されてしまうような焦り。背中はどんどん縮こまり、自分の足下ばかりを見つめている。けれど、少しだけ顔を上げて夜空を見れば、星々は変わらずに瞬いて、私たちを照らしている。大丈夫、一人じゃないよ、と教えてくれる。本書は私たちにとって、そんな「星」のような一冊だ。=朝日新聞2022年8月27日掲載
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文芸春秋・1540円=4刷11万部。5月刊。「40~50代を中心に、あまり小説になじみのない人や男性にも読まれる」と担当者。