「あいつは勇気がある」。建築写真家で国際的建築誌の発行人でもあった二川幸夫さんが建築家を評価する際の軸の一つが「勇気」だった。
工期や環境といった条件の中で、いかに自身の建築観を貫けるかということだろう。
80歳で逝った写真家の没後10年を機に、その建築写真と、自作を撮ってもらった安藤忠雄さんや伊東豊雄さん、妹島和世さんら17人の2014~17年の間のインタビューをまとめた一冊。“被写体”になっただけに、その二川評が鋭い。小嶋一浩さんは「眼(め)のエネルギーがカメラのレンズを通してバーッと出て」と評し、石山修武さんは「こねくり廻(まわ)さない。何しろ速い」。
そして何より、二川さんの写真の力。浮遊感があるとされる伊東さんの住宅であっても堂々とした立ち姿に。最後に登場する盟友・磯崎新さんの、出世作・旧大分県立大分図書館には、水平の傾きなんかお構いなしにぐいぐい迫り、建築が目に飛び込んでくる。これぞ「勇気」のある建築写真。昨年末に亡くなった大建築家の追悼にも思える本のつくりだ。2人は今ごろあちらで、豪快極まりない建築談議を楽しんでいるに違いない。=朝日新聞2023年10月21日掲載