資産18億円を築いた87歳のデイトレーダー、シゲルさん。投資歴は68年、運用額は6億円。いまや時の人だが、本人は「単に爺(じい)さんがネット取引をしているのが珍しいだけじゃないのか」と謙遜する。シゲルさんは豪邸に住むわけでもなく、よい服を着るわけでもなく、妻とインコと穏やかに暮らす。
親しみやすいシゲルさんの様子から、「自分も株で一儲(ひともう)けできるのではないか」と思う人もいるかもしれない。私も当初はそう思った。だが読み進めるうち「こんなこと自分にできるわけがない」と思うようになった。
シゲルさんの起床は午前2時。ストレッチをしてコーヒーを淹(い)れて、テレビの「日経CNBC」を見る。そしてパソコンで米国市場をチェック。4時に日経新聞が届くとすぐ読み込む。5時にはあらためて米国預託証券等(など)をチェック。
このように米国市場を入念に調査するシゲルさんだが、米株は売買しない。あくまでその調査は、日本市場の動きを予想するためなのだ。私はこの辺りのくだりに圧倒され、それまで適当に売買していた米株を全売りし、撤退してしまった。
日本市場の取引時間中、シゲルさんは徹底的に集中する。疲れても、腕を伸ばしたり、腰をひねったりといった株に必要ない動作はしない。デイトレードは瞬間のチャンスをものにせねばならないからだ。シゲルさんは「そりゃ疲れますよ」「取引中はガマン、ガマン」と言う。取引後は売買履歴をノートに克明に記録する。
シゲルさんは、楽して儲けたい人は株に手を出さないほうがよいとも言うし、興味があるならまずは始めてみればとも言う。本書には達人の思考と行動がちりばめられている。トレードに関心ある人の誰もが何かを得るだろう。=朝日新聞2024年6月22日掲載
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ダイヤモンド社・1760円。23年11月刊。5刷12万部。「老後の資金と過ごし方に漠然と思い悩む中高年が多いなか、著者の生き様自体が参考と刺激になり、投資本の枠を超えた魅力がある」と編集担当者。