
第1位:鈴木のりたけ「大ピンチずかん2」(小学館)

一昨年の受賞作の続編となる『大ピンチずかん2』が堂々の一位。突然訪れる数々のピンチを「大ピンチグラフ」で分析し、対処策をユーモラスに描いています。受賞コメントでは、作者の鈴木のりたけさんのピンチ・エピソードとして、クリスマスに「サンタ」が贈ったはずのプレゼントのお菓子を、子どもの一人が「お父さんにもらった」と口にしてしまったことで家族が凍りついたという話を披露してくれました。「大ピンチだけれど、家族が愛おしくなりました。ピンチというと委縮してしまいがちですが、本性やひととなりが出てくるキュートな瞬間でもあります。日本全国でそんな幸せな瞬間が生まれたらいいなと思っています」と語りました。
第2位:大森裕子「わすれていいから」(KADOKAWA)
赤ちゃんのときから一緒に育っている猫と男の子の成長物語を描いたという作者の大森裕子さん。いまは15歳のおじいちゃん猫となった飼い猫のトムと、息子さんたちの心温まるお話が絵本になりました。

「次男が小さい頃は、トムによくご飯を盗まれていました。長男が暗い顔で帰ってきたときは、トムがそばに行って膝に手をかけて涙をペロッと舐めてくれていました。猫ならではの素敵な寄り添い方で、ああ、私の出番はないなと思わされました。その長男が大学生になって、家を出たことがきっかけで絵本を作りました。会えなくても一緒にいるような存在というのがきっとあると思います。誰かを思う愛しい気持ち、相手の幸せを願う優しい気持ちを表現したくて絵本にしました」と大森さん。最後のシーンの「わすれていいから」の一言がぐっと心に残ります。
第3位:キューライス「シカしかいない」(白泉社)
いろいろな場所にシカばっかり! ちょっとシュールでかわいいシカの作品を描いたのは漫画家・アニメーターとしても活躍するキューライスさん。

「映画館や公園、銭湯など、私たちがふだん行くところが、ただシカで埋め尽くされている絵本です。シカばかりの映画館で上映する映画なら、大怪獣もシカなんじゃないかなど、いろいろ考えながら楽しんで描きました。実は『シカケツカレンダー』という、シカのお尻写真だけが載っているカレンダーと毎日向き合っていて、思い浮かんだのがこのタイトルです。それが絵本になりました」とキューライスさん。途中でシカの中に他の動物が混ざるなど探し絵の要素もあって、遊び心満載です。
>「ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!」キューライスさんのインタビュー記事はこちら
第4位:麻生かづこ/文 かねこまき/絵「いちごりら」(ポプラ社)

絵本売り場でもひときわ目立つ迫力あるリアルなゴリラが表紙の『いちごりら』。「私はいちごが大好きで、いちごの季節になるといちごばかり食べています。こんなに食べたらいちごになっちゃうと思ったら、『いっぱいいっぱい たべたらね いちごりらになっちゃった!』のフレーズが思い浮かびました」と作者の麻生かづこさん。
絵のかねこまきさんは、「かわいい絵本だから、私がいつも描いているシュールな絵は封印しないといけないだろうと違うタッチを持っていったら、『かねこさんのそのままの絵でいいんです!』と言われ、リアルな動物たちを楽しく描かせていただきました」と語ってくれました。思わず二度見したくなるインパクトある作品です。
第5位:ヨシタケシンスケ「ちょっぴりながもち するそうです」(白泉社)

「心がちょっぴり軽くなる絵本」シリーズの第3弾で、「好きな本の間に一晩はさんでおいたハンカチは 心配事をすいとってくれるそうです」など、ヨシタケシンスケさんのユーモアがきいたおまじないをたくさん載せた絵本です。
「創作のおまじない集として、勝手に因果関係をでっちあげて考えてみるのが楽しかったです。どんどんいいかげんなことを言いにくい世の中になっていく中で、誰が言ったかわからない、人を幸せにして楽しませるいいかげんな話を描きました。でも、そういう、いい嘘を作りあって称え合うのが『創作』で、そういう絵本作りに関われていることがうれしいです」とヨシタケさん。不安を抱える大人も子どもも、思わずくすりと笑ってしまう一冊を届けてくれました。
>ヨシタケシンスケさん「ちょっぴりながもち するそうです」インタビュー記事はこちら
第6位:大塚健太/作 かのうかりん/絵「トドにおとどけ」(パイ インターナショナル)
トドに誕生日ケーキを届けることになったカモメ。トドだと思ったらアシカ、次こそトドだと思ったらアザラシだった……と、似ている海の生きものの違いをユーモアたっぷりに描いた物語。ページをめくるたびに驚きと発見と笑いがあります。

作者の大塚健太さんは「自分でも海獣の違いをわかっていなくて、ただ違いを紹介するだけでなく、おはなしとして楽しめるものを心がけました」とコメントし、「近々水族館に行ってトドに受賞報告をします」と笑いを誘いました。絵を描いたかのうかりんさんは、「私も海獣が好きなので、性格や住んでいる場所を想像しながら、いろんな海獣を描くのがとにかく楽しかったです」と話しました。
>「ワニはどうしてワニっていうの?」大塚健太さん、うよ高山さんインタビュー記事はこちら
第7位:手塚治虫/原作 鈴木まもる/文・絵「火の鳥 いのちの物語」(金の星社)
手塚治虫さんの名作漫画『火の鳥』を、鈴木まもるさんが絵本作品にした話題作。贈賞式では手塚プロダクションの石渡広隆さんも登壇し、「手塚治虫が生涯を通して制作したこの作品は、子どもたちには内容が少々難解なところもありました。鈴木先生には作品の核となる命の尊さに着目されて、わかりやすく表現していただきました。いつの日か成長した子どもたちに、これをきっかけとして原作の『火の鳥』を読んでもらえたらうれしい限りです」とコメントしました。

鈴木まもるさんは、ホワイトボードを使って、お母さんのお腹の中で点の存在だった命が、細胞分裂を繰り返して成長し、生きていく様子を描きながら作品への思いを解説。「最初は恐れ多く、この壮大なドラマをどうやったら絵本にできるのかと思いましたが、火の鳥の巣を描いたら導かれるように描けました。この絵本が手塚先生の広い広い世界の入口になってくれたらと思っています」と語りました。

第8位:田中達也「おすしが あるひ たびにでた」(白泉社)
ミニチュア写真家・見立て作家として活躍する田中達也さんの『おすしが ふくをかいにきた』の第2弾が8位に入賞。おすしが山や海など、いろんなところへ出かけていく写真絵本です。

「ぼくの絵本はこれで4冊目となりますが、これまでと一番違う挑戦は、文章にだじゃれをたくさん使っているところです。だじゃれは『言葉の見立て』。『形の見立て』と合わせて楽しんでほしいです」と田中さん。「表紙の3人のお寿司がアルフィーに似ているので、SNSで『おすしがアルフィーたびにでた』と言った方がいました(笑)。それが秀逸で、すごく印象に残っています」と会場から笑いを誘いました。

第9位:柴田ケイコ「パンダのおさじと ふりかけパンダ」(ポプラ社)

昨年の絵本屋さん大賞になった「パンダのおさじシリーズ」の2作目がランクイン。小さなパンダが続々と現れるユーモアあふれる内容です。
「去年に引き続き、賞がいただけるなんて本当にありがとうございます。呪文でダンスを踊るシーンが少しずつ浸透してきて、講演会に行くと子どもが踊ってくれるようになりました。今回のふりかけのモチーフは、息子がお弁当のおかずは残すけれど、ふりかけご飯は食べてくるので、ふりかけって不思議な食品だなと思ってアイデアのひとつとして描かせていただきました」と柴田さん。新作が4月に発表予定ということです。
>「パンダのおさじ」シリーズ柴田ケイコさんインタビュー記事はこちら
第10位(同時受賞):たなかひかる「そそそそ」(ポプラ社)
木に重なってつかまるコアラの親子がいたと思ったら、次のページでは「にゅーん!」と突然足がのびるというシュールな世界を描き出した、たなかひかるさん。「頭は良くならない絵本シリーズ」と名づけて、子どもたちが思わず笑ってしまう絵本です。

「自分が好きなものをつくって生活ができているということで、既に何かのご褒美をいただいているような状態で日々生きています。こんな賞までいただけて不気味さすら感じています」と独特のたなか節で受賞の喜びを語り、「引き続きへんてこりんなものを作っていきたいです」とコメントしました。

>「おばけのかわをむいたら」たなかひかるさんインタビュー記事はこちら
第10位(同時受賞):柴田ケイコ「くまたのびっくりだいさくせん」(白泉社)
第10位は同数で2作品の受賞となり、柴田ケイコさんの作品がもう1作ランクインしました。ママにほめられたくて、くまたが子どもらしい「びっくり」をしかけていくお話です。

「自分の息子が小さい頃、びっくりさせられた思い出や、自分もふすまにいっぱいらくがきしたことを思い出して絵本にしました。こんなにいたずらのようなことを重ねるにもかかわらず、読者のみなさんに、くまたはかわいい、かわいいと言われて、描いてよかったなと思いました」と柴田さん。親子のお互いを思う愛情が伝わってくる絵本です。
その他、新人賞の1位には、玉田美知子さんの『ぎょうざが いなくなり さがしています』(講談社)が選ばれました。発想の斬新さと親しみやすい絵で、書店でも目立つ一冊でした。玉田さんは「MOE絵本屋さん大賞は憧れだったので、受賞をとてもうれしく光栄に思っております」とコメント。

また、ファーストブック賞(0・1・2歳向けの絵本)の1位には、瀧靖之さん監修・あかいしゆみさん絵の『きらきら ぴかぴか どうぶつ だいすき』(朝日新聞出版)が選ばれました。全ページにホログラムを使用し、まぶしいぐらいにキラキラが光るボードブックで、脳科学にもとづいた知育絵本として人気を誇っています。

「MOE」2月号では30位までの発表とコメントを掲載した大特集を組んでいます。さらに全国の書店では、受賞作品を集めた「MOE絵本屋さん大賞フェア」を開催。ぜひこの機会に、気になった絵本を手に取ってみてください。
