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地政学的な文化史の観点で描く「アメリカ・イン・ジャパン ハーバード講義録」 高谷幸の新書速報

  1. 『アメリカ・イン・ジャパン ハーバード講義録』 吉見俊哉著 岩波新書 1166円
  2. 『グローバルサウスの時代 多重化する国際政治』 脇祐三著 光文社新書 1100円

 トランプ新政権が発足し、日米関係への影響を懸念する議論が盛んだ。(1)は、「日本の中のアメリカ」と題した著者のハーバード大学での講義を、日本の読者にむけて編纂(へんさん)し直したものだ。黒船来航、占領、基地、被爆と原子力、ディズニーランドなど近代以降の日本の「アメリカ」との出会いの象徴的な局面が、十九世紀半ば以降、太平洋から世界へと広がったアメリカの帝国主義的な拡張の一環として、地政学的な文化史の観点から描かれる。日本にとってそれは、非対称な関係を前提としたアメリカの「抱擁」に囚(とら)われていく過程でもあった。

 とはいえ、今回の政権交代以前からアメリカのヘゲモニーが翳(かげ)りを見せているのも事実だ。(2)は、気候変動、パンデミック、戦争などを背景に、世界政治の舞台で近年より存在感を増すようになった「グローバルサウス」諸国の動向と戦略を多角的に論じる。機会ごとに戦略的かつ柔軟に対応する「グローバルサウス」の立ち回りは、米対中ロという二項対立を前提にした枠組みでは適切に捉えられない。インドやブラジルのほかUAEやサウジなど中東諸国にも目を配り、トピックごとに異なる連携が築かれ、多重化された形での世界秩序を展望する。

 トランプ新政権は、帝国主義的拡張を基盤とした米国主導の世界秩序形成から自ら降りる方向性を示している。果たして日本は、アメリカの「抱擁」への囚われから自らを解放しうるのだろうか。=朝日新聞2025年2月15日掲載