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逢坂冬馬さん「同志少女よ、敵を撃て」どんな本? ロシアのウクライナ侵攻の年、本屋大賞を受賞

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』あらすじ

 『同志少女よ、敵を撃て』は2021年11月に刊行された、逢坂冬馬さんのデビュー作。独ソ戦時に実在した女性だけの狙撃小隊を題材に、精密な戦場の描写とともに女性たちの内面の変容を描きだしています。

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?同志少女よ、敵を撃て: 書籍- 早川書房オフィシャルサイト

 逢坂さんは、「好書好日」に掲載された朝日新聞のインタビューで「個人と戦争の関わりに昔から興味がありました。はからずも動員され、連帯して戦うことになった女性たちの内面の移り変わりを通じて、戦争の悲惨さを描きたいと思った」と語っています。

本屋大賞を受賞した逢坂冬馬さん

『同志少女よ、敵を撃て』本屋大賞受賞の背景

 逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』はデビュー作にして、2022年の本屋大賞(第19回)の大賞に選ばれたほか、直木賞候補にもなりました。

 この年の2月にロシアがウクライナに侵攻し、世界に衝撃が走りました。

 書評家の杉江松恋さんは「好書好日」に連載している書評で「ロシアによるウクライナ侵攻という世界的危機が起きた現在では、国家がいかに個人をないがしろにする存在であるか、それに対してどのように抗うべきかという道筋を教えてくれる本として読まれる可能性はあるだろう」と予想していました。

 逢坂冬馬さんは同年4月6日にあった本屋大賞の発表会で、受賞の喜びの一方、ロシアのウクライナ侵攻で悲嘆にくれていると述べました。

「ウクライナの市民や兵士、あるいはロシアの兵士がどれだけの数が亡くなっているかということを考え、また、この小説に登場する主人公セラフィマがこの光景を見たならばどのように思うかと悲嘆にくれました。
今回も戦争を始めるのは簡単であることが実証されてしまいました。しかし、平和構築は誰かに命じられてすぐにできるものではありません。戦時においても平時においても、平和を望む人たちは平和構築のためのプロセスに可能な限り参加し、お互いに信頼を勝ち取っていかなければなりません。私が描いた主人公セラフィナがこのロシアを見たなら、悲しみはしても、おそらく絶望はしないと思います。なので私も絶望するのはやめます。戦争に反対し、平和構築のための努力をします。それは小説を書く上でもそれ以外の場面でも変わりはありません」本屋大賞に「同志少女よ、敵を撃て」 逢坂冬馬さん「絶望はしない、平和のため書き続ける」|好書好日

 一方で逢坂さんは、副賞の図書券10万円分について「ロシアでの反戦活動で拘束された人たちへの支援をしている団体に1000ドルを寄付します」と明かしました。