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古内一絵「マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ」 「癒しの食」で緩くつながる

 いつ頃からだろう、食べることを主題とする文芸作品が目立つようになったのは。もちろん昔から食にまつわる作品はある。昨今の作品の特徴は、食べることを通じて、他者と緩くつながったり、登場人物が癒(いや)されたり、あるいはかれらの人生をそっと後押しする内容にある。登場する食事も、手間隙(ひま)をかけて作られたものが多く、作り手のケアの証(あかし)のようだ。

 本書は、こうした「癒しとしての食」とも呼べる作品の典型といえる。舞台は、商店街の裏路地、ネットでは探せない場所で、店主が不定期に開けている夜食カフェ「マカン・マラン」だ。元エリートサラリーマンだった店主は、病をきっかけにドラァグクィーンとして自分を生きるようになり、いつしか食べる人の体調を慮(おもんぱか)った料理やお茶を提供するようになった。そこに様々な経緯で人が集まり、その料理に癒されたり、人生の転機のきっかけを摑(つか)んでいく。集う人びとは、お互いプライベートに踏み込むのではなく、あくまでも緩くつながっている。

 近代社会では、日常の食は家族に代表される共同体のなかで完結してきた。だが、家族的つながりが窮屈になったり、家族をもたない人びとも増え、孤食が増加するようになった。そうした時代だからこそ、誰かと共に食べることは特別な意味を帯びるようになっている。同時に、人びとは、制度的な家族から距離をおく一方、別の緩やかな親密性、相互の配慮(ケア)に基づいた関係性を模索しているようにもみえる。そしてこの時、誰かと共に食べることが、その関係形成のきっかけの一つとして見出(みいだ)されているのではないか。

 このような時代の欲望を映し出す本書はまた、食という、太古から人間が関係性を築くきっかけとしてきた営みを現代的に再解釈した作品ともいえるだろう。=朝日新聞2026年4月25日掲載

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 中公文庫・902円。25年11月刊、3刷7万部。単行本は15年11月刊で累計17万3200部。10年続く人気シリーズ初の文庫化。担当者は「疲れた現代人にぴたっとハマった。身体と心に染み込む物語が多くの人の心をつかんだ」。