ISBN: 9784635340571
発売⽇: 2026/03/17
サイズ: 18.8×2cm/264p
「羆撃ちに人生を賭けた男」 [著]藤本靖
北海道で人を襲うヒグマの4割が「半矢(はんや、仕留め損なって逃げた個体)」である、というニュースが出ていました。危険性を下げるため、銃撃の際は「即時無力化」が望まれ、猟師の的確な判断が欠かせません。
本書に登場する赤石正男氏は、それを長年体現し続ける猟師です。北海道開拓使設置から157年、ヒグマ100頭の捕獲で名人級のところ、単独で200頭、団体での猟も含めると400頭を超えるヒグマを仕留めてきた、超絶的な腕前。
その戦果を年代順に並べるだけで唯一無二の本になるところ、自然とそこに生きる生物の姿も描かれ、その命を獲(と)る狩猟がいかなる行為であるか、読者は立体的に感じ取ることができます。これは著者が40年余り、間近で赤石氏を捉えてきたからでしょう。
年嵩(としかさ)の羆(くま)撃ち名人が亡くなった際、まさに半矢となったヒグマを弔い合戦として仕留める話。極端な肉食と賢さで話題になったOSO(オソ)18の討伐隊に参加。820メートル先を走るヒグマに7発撃って4発命中の記録……。狩猟場面はどの小説より克明で読み応えあり(私に銃の知識があれば、さらに深みが増したでしょう)。
静止して長時間様子をうかがう赤石氏の姿が何度も登場し、特に2001年秋の「対峙(たいじ)」では、ヒグマの眼前2メートルの距離でなんと2時間! 赤石氏の胆力は慎重さとして最も機能し、まさにその点で熊を上回ることが多いのかと感じられました。
最初に単身でヒグマを仕留めた時、赤石氏は「恐ろしいよりも美しかった」と感じ、少年時代も川の流れを見て「恐れと憧れ」を同時に感じていたといいます。
そのような部分も含めた才能に加えて、時代や機会に磨き抜かれた存在……。そんな人社会にとっての〝守護神〟は、「狙って育てられるものではない」という著者の危機感を他人事と感じられる人は、今の日本には少ないのではないでしょうか。
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ふじもと・やすし 1961年生まれ。NPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」主任研究員。著書に『OSO18を追え』。