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W・W・ジェイコブズ「猿の手」 「三つの願い」題材の短編ホラー

『小さな手 ホラー短編集4』

 三つの願いをかなえてもらえるとしたら、何にする? 誰もが一度は考えたことがあると思う。「ドラえもんのポケット」のような答えはルール違反。願いは三つというのがミソなのだから。よく知られている話の一例は、妖精から三つの願いを授けられた木こり夫婦の昔話だろう。腹をすかせてついソーセージを願った夫に、妻が激怒。口論になり、夫は怒りに任せて二つ目の願いを使い、ソーセージを妻の鼻にくっつけてしまう。仕方なく最後の願いでソーセージを取るはめに。結局何も得られませんでした、というあの話だ。

 どうやら三つの願いという設定に魅力を感じるのは古今東西共通らしく、さまざまなパロディーや派生作品が書かれてきた。その代表格が、もはや元の昔話と同じくらい有名な「猿の手」だ。

 ホワイト家は、インド帰りの友人から、三つの願いをかなえるという猿の手を譲り受ける。軽い気持ちで金(かね)がほしいと願った翌日、息子が工場事故で死亡し、見舞金として受け取ったのが、願ったのと同じ金額だった。悲嘆にくれる妻にせがまれ、ホワイト氏は「息子が生き返りますように」と願ってしまう。そして真夜中、玄関のドアをノックする音が暗い家中に響きわたる。誰が――何がやってきたのか? そう、こちらはホラーなのだ。

 百年以上前に書かれたこの短編ホラーの古典は、いわば「パロディーのパロディー」を多く生み出すことになった。映画化もされたスティーブン・キング『ペット・セマタリー』やキャンデス・フレミング「リリー」、西尾維新「するがモンキー」などにもモチーフが受け継がれている。

 学校の怪談の例を見るまでもなく、子どもはなぜかホラーが好きだ。実は、筆者が子どもの頃、父が寝る前に語り聞かせた物語の定番が「猿の手」だった。怖がる弟たちと私を見て、父は面白がっているように見えたが……いや、この世には人知の及ばぬものがあることを伝えようとしたのだ、と今では思うようにしている。

    ◇

 「猿の手」は金原瑞人編訳『小さな手 ホラー短編集4』(岩波少年文庫・836円)などに所収。ロンドン生まれの作者(1863~1943)は郵便局で働きながら小説を書き、多くの作品を残した。=朝日新聞2026年6月6日掲載