先日、小学生の女の子たちと「絵文字選び」ゲームをした。動物、花、果物など、絵文字の各グループの中から一つ(犬、バラ、桃など)を皆が選び、せーの、で指し合うのだ。選んだものが一緒だと彼女たちは喜ぶ。せーの。せーの。何度やっても飽きない。その熱中ぶりを眺めているうちに、ふとある絵本を思い出した。不朽の名作『だるまちゃんとてんぐちゃん』だ。
小さいだるまちゃんは、友達のてんぐちゃんが持っているものが羨(うらや)ましい。「うちわがほしいよう」。ねだられた父親のだるまどんは、床一面にどっさりとうちわを広げてくれる。形も絵柄も種々様々なうちわの一群。そこに望みの品はなく、結局、だるまちゃんの機転で落着するのだが、同様のことがてんぐちゃんの帽子や下駄(げた)や鼻をめぐって繰り返される。
帽子の一群。履きものの一群。花の一群。子ども時代、見開き狭しとちりばめられたそれら数々の造形に、どれほど心をときめかせたことだろう。友達と「せーの」で一つを選び合うのは定番の遊びだった。今日も明日も永遠に同じことを楽しめた。
思えば、毎日の生活の中で、小さい子どもには自ら何かを選択する機会が少ない。食べるものも、着るものも、行く場所も、多くは親が決めてくれる。だからこそ、何かを選ぶという行為にはある種の快感が伴うのかもしれない。
子どもの心を遊ばせる達人だった作者のかこさとしは、計11冊のだるまちゃんシリーズを世に遺(のこ)した。頭が下がるのは、その制作期間約50年間の中で、一度として同じパターンを踏まなかったことだ。毎回違ったキャラクターを生みだし、新しいベクトルから読者を楽しませ続けた。2018年には91歳にして書き下ろしの3冊を同時刊行するという偉業も成している。
私の推しはその中の1冊、『だるまちゃんとかまどんちゃん』だ。怖い女子たちが牛耳るおままごとでは静かにしていても、やるときはやるかまどんちゃん。「背中で語る」とはコレか、とその佇(たたず)まいに痺(しび)れた。(作家)
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福音館書店・1100円。著者(1926~2018)は福井県生まれ。67年に始まった「だるまちゃん」シリーズや、『からすのパンやさん』のシリーズのほか、科学絵本も多く手がけた。=朝日新聞2026年7月4日掲載