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「天皇五代と戦争」書評 歓談重ね、たどりついた「史観」

評者: 御厨貴 / 朝⽇新聞掲載:2026年09月05日
天皇五代と戦争 平成の天皇皇后は皇居で何を語ったか 著者:保阪 正康 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:歴史

ISBN: 9784022521446
発売⽇: 2026/06/19
サイズ: 18.8×1.6cm/296p

「天皇五代と戦争」 [著]保阪正康

 在野の歴史家の泰斗が、近現代史の中の五代の天皇と「戦争」について、新たな「史観」を確立しようと試みた一冊。歴代天皇の戦争観は、果たして好戦的だったのか、それとも避戦的だったのか。最初は避戦的だが、勝利を収めると好戦的になっていく。まさしく明治天皇と昭和天皇の行動はそうであった。この分かり難さを、著者はイデオロギーや制度によることなく、天皇の「身分」と「個人」との二分法をもとに解説していく。
 「天皇を単一の抽象的存在」として見るのではなく、公の存在と個の存在とに分けて見るならば、戦争以外では、実は公と個は一体化していた。明治天皇も昭和天皇も「皇統の存続」の一点で悩み、矛盾する行動をとったのではないか。
 近代150年といえども、日本の対外戦争時代は、1894年の日清戦争勃発から、1945年の日米戦争終結までの50年間だけである。にもかかわらず、昭和天皇は戦後もずっと、平成の天皇は戦争なき時代にずっと、あの戦争の責任、そして戦後の平和の維持について常に自らへの問いかけを繰り返している。著者は、天皇のおことばや公的発言を丁寧に掘り起こし、時代による微妙な変化をしっかりと見据え、折々の天皇の真意に迫っていく。
 半藤一利さんと平成の天皇皇后両陛下との「歓談」を繰り返す中で、著者の天皇「史観」は確立されたという。生身の天皇皇后との対話からのヒントは、本書の随所にうかがわれる。「どうして日本軍は(マニラで)市街戦をやったのでしょうか」「なぜ先帝は満州事変の拡大をダメだと言わなかったのか」。そして「日本にはどうして民主主義が根付かなかったんでしょうね」。いずれも平成の天皇による直球の質問だ。誰が受けてもたじろがざるを得ない。今や令和の天皇が、遠くなる戦争の記憶の前で、複雑化する平和の意味をいかに伝承するか、試行錯誤の最中にある。 
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ほさか・まさやす 1939年生まれ。ノンフィクション作家。2004年に菊池寛賞。著書に『昭和陸軍の研究』『真の保守とは何か』など。