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ウィル・アイズナー・著「神との契約 ニューヨーク路地裏の群像劇」 現代に通じるテーマ、鮮やかに表現

本書はウィル・アイズナー(1917~2005)の生誕100周年で刊行された記念版の邦訳。原著は78年刊。図版は本書55ページから©2006 by Will Eisner Studios, Inc.

 ウィル・アイズナーは、アメリカのグラフィックノベルやアメリカンコミックに大きな影響を与えた人物で、日本人も多数受賞している漫画に関する世界的な賞「アイズナー賞」は彼の名前を冠したものだ。

 この本は、ニューヨーク・ブロンクス地区にあるテネメントと呼ばれる賃貸集合住宅に暮らす人たちの群像劇で、低所得労働者が暮らしている街のため、その内容には陰惨なシーンも多い。

 漫画を翻訳するにあたっての大きな困難のひとつは、「文字の配置」だと思う。この本も、縦書き、横書きという違いがあるだけで、コマの運びや絵を見るための目の動きが変わる。こういった問題をはらむグラフィックノベルは、識字の問題から生まれる絵画的な、とりわけ聖書にまつわる書物を思い起こさせる。

 この土地は誰のものか、という問いはさまざまな世界的課題につながっている。不動産の契約は、神との契約、つまり約束された土地とも通じる。

 私たちは地球で生きている以上、その重力に縛られ、表面にへばりつくようにして暮らさざるを得ない。どこから人が来てどう働いて、どう暮らし学ぶかも含めて、人間のとても重要な要素なんだろう。そのテーマが50年近く前にこのグラフィックによって鮮やかに表現されていたことも含めて、いままさに読んで、驚いてほしい。=朝日新聞2026年9月5日掲載