「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回取り組むのは、川上弘美『センセイの鞄』。
主人公ツキコが行きつけの居酒屋で、高校時代の恩師、センセイと再会するところから始まります。たまたま会えば居酒屋のカウンターで世間話を交わすようになった二人。露店めぐりやキノコ狩、時にはちょっとした喧嘩をしながら、次第に恋心が芽生えていきます。ちょっぴりドキドキしてしまう、年の離れた男女の恋物語です。
「特別(スペシャル)」を食べる
センセイに誘われ、ツキコは八がつく日に立つ市へ。その道中、腹ごしらえをすべく、弁当屋に立ち寄って二人が注文したのが「豚キムチ弁当」でした。
「センセイのは、スペシャルなんですね」
「スペシャルですとも」
「どう違うんでしょう、普通のと」
二人で頭を並べ、二つの弁当をじっくりと眺めた。
「さしたる違いはありませんな」
センセイは愉快そうに言った。
「スペシャル」はどうやらサイズが大きい模様。
センセイは「さしたる違いはない」と言うものの、「大盛り」ではなく、「スペシャル」という名がついているあたり、特別に美味しそうな響きを感じます。
もしや付け合わせが特別感を醸し出しているのではないかと想像をふくらませ、目玉焼きを載せてみました。
目玉焼きの黄身を割って、とろ~りとした黄身とピリ辛な豚キムチを一緒に食べると、ごはんがすすみます。
「ごはんが止まらない」という意味でも“スペシャル”な「豚キムチ弁当」でした。