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脇役たちの焦燥感と希望 上遠野浩平「ブギーポップは笑わない」

 電撃文庫の新人賞、電撃ゲーム小説大賞(現・電撃小説大賞)を受賞し、1998年に出版された上遠野(かどの)浩平『ブギーポップは笑わない』が、2度目のテレビアニメ化(現在放送中)と合わせ、新装版で刊行された。

 今なお続編が刊行中の『ブギーポップ』シリーズは、しばしばライトノベルの歴史を変えたベストセラーと評される。ファンタジーが全盛だった当時のライトノベルに現代劇の潮流をもたらしたきっかけのひとつであり、同じく電撃文庫がライトノベルを代表するレーベルへと躍進する上でも大きな役割を果たした。本シリーズや上遠野からの影響を公言する作家も、ライトノベルの内外を問わず多数、存在している。

 しかし、そうした評価とは裏腹に、本書のあらすじ自体は簡単で、女子高校生・宮下藤花の別人格である「変身ヒーロー」ブギーポップが、学園に潜む人食いの怪物を退治するという、実に単純な、よくある話にすぎない。けれども本書の特徴は、それを本来なら脇役のはずの登場人物たちの視点から群像劇として描いた点だ。視点となる人物たちは脇役でしかないから、自分が遭遇した変身ヒーローや怪物の正体を知ることができない。それどころか、親しくしていた女の子が急に妙な格好を始めた、程度の認識で、事件の存在にさえ気づけなかったりする。しかも彼らの多くは自身の立場に自覚的で、作中では、脇役として物語の全貌(ぜんぼう)も世界の真実もけして知ることのないまま生きていかなければならない疎外感や焦燥感が切実に語られる。

 そんな彼らにブギーポップが語り掛ける印象深い警句と相まって、何より評者にとっての本書は、当時、自分が抱いていたえたいのしれない不安を言葉にしてくれた作品だった。同意してくれるファンはきっと多いと思う。

 刊行から20年が過ぎて、ネットやスマホの普及など、現代の光景は大きく様変わりした。けれども、本書が描いた等身大の「脇役」たちの悩みや、あるいはそれを通じて語られる小さな希望には、時代を超えた普遍性が宿っていると思いたい。ぜひ、今回の新装版刊行を契機として、新たな読者を獲得してほしいと願っている。=朝日新聞2019年1月26日掲載