「フランス史」書評 血の通った人間たちの歴史
評者: 出口治明
/ 朝⽇新聞掲載:2019年06月08日
フランス史 (講談社選書メチエ)
著者:ド・ソヴィニー,ギヨーム・ド・ベルティエ
出版社:講談社
ジャンル:新書・選書・ブックレット
ISBN: 9784065150290
発売⽇: 2019/04/12
サイズ: 19cm/667p
フランス史 [著]ギヨーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー
簡単なフランス史の本が見当たらないことに気づいた著者は、年代順に政治的事件と歴史的人物を中心に昔ながらのスタイルで通史を書き上げた。それが本書であって巨石文明の時代からミッテランまでを29章にまとめている。公正で平明でバランスがとれていて、かつ実に面白いのだ。著者の力量は並大抵ではない。
何が読ませるのか。著者の手にかかると歴史的な人物が動き出すのである。それも生き生きと。異様な人物、大蜘蛛ルイ11世は経済的現実に敏感であった初めての近代的君主。迅速で透徹した注意深い知力と、超人的な活動力を兼ね備えていたナポレオンは、国民投票と宗教的権威に彩られた戴冠式を挙行することによって帝政を確立。わずか17語の尊大なコミュニケを残して退いたドゴールは、公の場に出ず何も語らずあらゆる人々との接触を避けて回想録の執筆に専念。歴史は、これら血の通った人間が作ったのだ。