右は本書の裏表紙。シンガポールのシンボルとしておなじみ、巨大なマーライオンがホテルの部屋の中にある。いや、逆だ。「マーライオンの周囲に部屋がある」が正しい。もともとこんな部屋はない。いつもならここは空中だ。実在するモニュメントの周囲を取り囲み、仮設で部屋を作ったのは、世界で活躍する西野達。実際に泊まれる完成度だから驚く。本書にはこんな、腰が抜けるほど面白い、やんちゃなプロジェクトが目白押し。公共空間を舞台にするため、実現するか、常に五分五分だという。それでも新しいアイデアを求めて世界を歩き、考え抜く。アーティストのそんな姿が本書から浮かび上がる。
一時的な、多くは仮設の作品群であり、現地に行かなきゃ体験できない作品ばかり。説明が難しい。だが本書は臨場感にあふれ、言葉も輝いている。考え抜かれた編集の作品集なのだ。読者の脳もカッカして、作者に負けない面白いアイデアが浮かんでくるだろう。＝朝日新聞2020年3月7日掲載
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