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「ヴィルヘルム・ハマスホイ 静寂の詩人」 寂寥感とでも呼ぶべき圧倒的な静けさ

 12年ぶりのハマスホイ展を楽しみにしていたが、臨時閉館してしまい行けなかった。本物の絵を鑑賞することは叶(かな)わないが、作家自身の生活や同時代の画家の紹介を織り交ぜながら作品の魅力に迫る本書をお薦めしたい。

 19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したこのデンマークの画家は、自宅の部屋の絵を大量に描いた。窓から差し込む光を受けた部屋の絵には、家族である女性の姿が描かれていることもあるが、同時代の画家の描く同じ主題の絵と比べると、際立って異質に見える。

 彩度と色味を徹底的に抑えた絵から感じるのは、寂寥(せきりょう)感とでも呼ぶべき圧倒的な静けさだ。他の画家が、日常の営みから生きる喜びのようなものを描き出そうとしているとすれば、ハマスホイの絵はモチーフが象徴するものに憧れながら、そこにうまく溶け込めない異邦人(ストレンジャー)の自画像にみえる。おそらく誰もが持つ、世界に自分が存在することへの違和感を描き出すことができる、稀有(けう)な画家なのだ。=朝日新聞2020年3月21日掲載