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大矢博子さん注目の時代小説3冊 出会い、手を組み生きていく

      • 周防柳『南朝 風姿花伝』(角川春樹事務所)
      • 朝倉かすみ『けんぐゎい』(光文社)
      • 永井紗耶子『めぐる糸 明治浪漫霊異譚』(双葉社)

       この時代にこんな鉱脈があったのかと思わせてくれたのが、周防柳『南朝 風姿花伝』である。室町時代初期に能を完成させるも、後に佐渡へ流刑となった世阿弥(ぜあみ)の一生を追った力作だ。

       物語は世阿弥と能の物語を縦軸に、南北朝の確執や足利将軍家の思惑を横軸に進む。それだけでも時代に翻弄(ほんろう)された芸術家の生涯として読ませるが、面白いのは、幼い頃の世阿弥が楠木正成の子孫である少年・次弥太と出会うこと。ふたりはあるきっかけで、生涯続く友情を深めることになる。

       楠木正成と世阿弥が血族という説があるが、本書はその説を巧みに、かつ意外な手法で取り入れた。さらに章ごとに視点人物を替え、能の発展と将軍家の企(たくら)みを多面的に描き出すことで、なぜ世阿弥が佐渡に流されねばならなかったのかという歴史の謎に鮮やかな解釈を与えているのだ。

       戦国や幕末に比べると、南北朝から室町が舞台になる小説は少ない。そんな中、芸道小説と併せることで足利義満の時代から嘉吉の乱までを描いた本書は、周防柳のひとつの到達点と言える。

       朝倉かすみ『けんぐゎい』は、現代小説で多くのヒット作を持つ著者が初めて挑んだ時代小説である。だが初めてとは思えない手練(てだ)れぶりに驚いた。

       利発だが顔に痘痕(あばた)の残るふゆは手習い所の手伝いに雇われるも、そこで歪(ゆが)んだ性癖を持つ主人に手籠(てご)めにされ、懐妊してしまう。堕胎を命じられたふゆが出会ったのは、女の産む産まぬを助けるひとりの女医者だった……。

       見た目や特質、出自といった自分ではどうしようもない理由で世間の〈圏外〉に置かれた者たちが手を組んで生きていく様子を描いた長編である。女性たちの連帯が特にいい。だが特筆すべきはその文章芸ならぬ独特の〈話芸〉だ。語りが聞こえてくるような文章なのである。講談で神話を聞いているような、得も言われぬリズムが心地よい。それがこの物語ならではの風味を生み出している。一読、いや、一聴の価値あり。

       永井紗耶子『めぐる糸 明治浪漫霊異譚(たん)』は、生まれつき霊が見える青年・啓吾と、心霊オタクの華族の令息・正周のバディもの。橋の袂(たもと)の髑髏(どくろ)、手を合わせて祈る猫、表情が変わる写真などの怪異をふたりで解決していく。

       キャラクターが立っているのとタッチが軽めなので楽しく読めるが、実は明治という急速な時代の変化が生み出した悲劇や、いつの世も変わらない人間の愚かさや醜さが物語の底にある。死してなおこの世に思いを残す魂魄(こんぱく)の悲しみを、ふたりが優しく掬(すく)い上げる過程が読みどころ。

       未解決の事件もあるが、続編が予定されているとのこと。今から楽しみだ。=朝日新聞2026年6月24日掲載